あやまちは、あなたの腕の中で〜お見合い相手と結婚したくないので、純潔はあなたに捧げます〜
 雨音が、屋根瓦をやさしく叩いていた。
 この時期の雨はしとしとと降り続いて、不快な湿り気が空気にまとわりついている。
 縁側のガラス戸から見える物置の軒下には、ひなが自作した薬草の乾燥棚があった。
 雨除けに古い布がかけられていたが、この長雨では心もとない。
 
「止みそうにないな」

 ふと振り向くと、廊下の柱に背を預けるようにして慶一郎が立っていた。

「……あの……」

 どうしてここに? と訊ねるのも失礼な気がして、言葉を止めた。

「何かあったのか?」

 ひなは、はっとして視線を落とす。

「薬草の……乾燥棚が、気になってしまって」
「そうか。あの棚、おまえが工夫したんだな。竹を組んで、うまく風が通るようにしてある」

 思いがけず褒められて、ひなは少しうつむく。
 長屋にいた頃は当たり前のようにやっていたことなのに、こうして言葉にされると妙に照れくさい。
 
「それに、あの木箱……花壇のあれも、おまえが?」

 問われて、ひなは顔を上げる。
 慶一郎の視線は、ひなが育てている花壇のほうに向けられていた。

「はい。青蓮草は、湿気と日陰を好むので……陽の当たりすぎる場所では育ちません。ですから、木箱に薄布を張って、湿度が逃げないように──」

 ひなが答えるあいだ、慶一郎は黙って耳を傾けてくれていた。

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