あやまちは、あなたの腕の中で〜お見合い相手と結婚したくないので、純潔はあなたに捧げます〜
 お見合い相手の篠宮真澄は、背は高く整った顔立ち。
 声も穏やかで、見た目だけなら確かに文句のつけようはない人物だった。
 
「ひなさんは、女中の仕事の傍ら、薬を作っているとか」
「ええ、そうですのよ。まあ、早乙女製薬の薬にはかないませんけれども」
 
 ひなが口を開く前に、仲介人の清栄が口を挟む。
 
「篠宮に嫁ぐからには、それなりの作法と教養も必要ですが……」
「ええ、ひなは読み書きもできますし、早乙女家のしきたりも完璧です。平民ですが、なかなかこんな娘はいませんわよ」
 
 ずっとこんな調子が続き、ひなは次第に相槌を打つだけとなり、伏し目がちに視線を落とす。
 
「なるほど。とても素晴らしいお方のようだ。しかし……僕は慎ましやかな女性が好みでしてね──薬など作る必要はありません」
「……え?」

 その言葉に耳を疑い、ひなは顔を上げる。
 
「家庭に入っていただければそれで充分。僕の前では、出しゃばったことはしないように」

 淡々とした口調のなかに、ひなの心を締めつける冷たさがあった。

「外出する時は、必ず僕と一緒に。髪は長いほうが美しいと思います、切らないでいただきたい。あと……着物も、あまり地味なのは好ましくありませんね。少し、私の好みに合わせていただけますか?」

 ひなは戸惑いながらも、黙ってうなずくしかなかった。
 しかし最後のひと言で、思わず顔を上げてしまった。

「念のため伺っておきますが……ひなさんは、当然ながらご清白でいらっしゃいますよね?」

 まるで商品の品質を問うような口調だった。

「……!」

 ひなは、声が出なかった。
 その場にいた清栄も、さすがに聞き捨てならなかったようで、目を見開いている。

「い、嫌ですわ、篠宮様……当然です。今までずっと早乙女家で真面目に女中をしてきたのですもの。浮いた話など、ひとつもございませんわよ」
 
 ほほほ……と、清栄はごまかすように乾いた笑いを漏らす。
 ひなの胸には、鉛のような違和感が残った。

(──この人と、私は夫婦になるの?)

 膝の上で拳をぎゅっと握る。
 その様子に気づく者は、誰もいなかった。
 
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