あやまちは、あなたの腕の中で〜お見合い相手と結婚したくないので、純潔はあなたに捧げます〜
「あの……お薬をお持ちしました。早乙女様の傷に効いたようで、こちらも嬉しい限りです」
「ああ、ありがとう」

 慶一郎はそう言いながら、洋椅子にゆっくりと腰を下ろす。
 無駄のない所作。眉ひとつ動かさない顔立ちに、鋭く透き通った目。
 噂どおり、その視線には感情の起伏が感じられなかった。

(……やっぱり、怖い方なのかしら……)

 そう思っていると、意外な言葉が耳に入ってきた。

「……この薬のおかげで随分楽になった。……正直なところ、今後も継続して手に入ればと思っている」

 その一言に、ひなは少し驚いて顔を上げる。
 あの冷たいと評される男の声が、ほんのわずか柔らかさを帯びたような気がした。
 
「お役に立てて何よりです。ですが、調合も一人で行っていまして……材料も希少で、あまりたくさんは作れません」

 ひながそう言うと、慶一郎は「そうか……」と頷いた。
 そして一呼吸置き、何かを考えるように視線を少し伏せる。
 
「山根さんから聞いたのだが、一人で暮らしているそうだな?」
「は、はい……」

 不意を突かれ、ひなは目を丸くする。
 鋭い視線を向けられただけで、喉が渇くような気がした。
 
「……ちょうどいい。早乙女家で住み込みで働かないか」
 
 ひなの胸の奥に、小さな動揺が波紋のように広がっていく。

「わ、私が……早乙女家で……?」
 
 あまりに唐突な提案に、思考が追いつかない。

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