赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
「どうした、リィル?」
耳に馴染む声で私の意識は今に戻る。
「いえ、ただ約束が果たせる日が来て嬉しいな、と。シエラたちに会えるのも久しぶりですし、それに……」
私は紫紺の瞳とヴァイオレットブルーの長い髪をした社交界の華だった彼女のことを思い出す。
私と同じ、偽物を演じていた彼女。
彼女は獄中で自殺したことになっているが、今は名を変え彼女を知るヒトのいない地で彼女の王子様と共にその才を発揮している。
これから先も監視が外れることはないだろうけれど。
「見逃してくれて、ありがとうございました」
「覚えがないな」
セルヴィス様はそう言って紺碧の瞳を瞬かせる。
全部を飲み込んでしまいそうな夜のような人だから、きっとこの程度の秘密を飲み込むなんて彼には大した事ではないのだろう。
「いいえ、なんでも」
だから、私も全部全部飲み込んで、
「本日は皇帝陛下の寵愛を受けるたった一人の妃を堂々と演じてみせますね。例の演劇のモデルだと期待されてますし」
堂々と彼の隣で顔をあげようと思う。
セルヴィス様が私が正妃になるなら不要だとなくしてしまったので、この国にはもう後宮は存在しない。
とはいえこれから先も野心の多い貴族達との化かし合いは続くだろうから、契約妃だった時以上に頑張らねばと気合いを入れる私。
そんな私をじっと見たセルヴィス様は、
「寵愛は演技じゃないんだが、我が妃は随分疑り深いようだ」
不満気な声を上げる。
「えっと、それはモノの例えといいますか」
やばい、なんか余計なスイッチ踏んだと焦る私を前に揶揄うように口角を上げるセルヴィス様。
「リィルには身をもって理解してもらわなくては、な?」
獲物を捕食する狼みたいな紺碧の瞳に捕まって抗えなくなった私の視界は狭まり、そのままセルヴィス様に口付けられた。
「ヴィー、これ以上はだめっ」
何度目かの触れ合いの後、白旗をあげた私から名残惜しそうに離れたセルヴィス様は、
「仕方ない。今はこれで勘弁してやる」
そう言って私の手を取り指先に甘噛みした。
「なっ、もう! ……せめて場所は考えてください」
「人払いはしてあるが?」
「そういう問題じゃ」
外だと咎める声は色香を隠さないセルヴィス様の甘い声にかき消され、私の言葉は行き場を失う。
せめてもと睨んでみるが、
「ふはっ、そんな顔をしても可愛いだけだぞ」
私の天色の瞳には上機嫌なセルヴィス様が映るだけ。
「ようやく君を正妃にできる、とこれでも浮かれているんだ。大目に見て欲しい」
甘えるようにそう言われ、自分でもじわじわと頬に熱を持つのが分かる。
結局のところ、私はこの人に勝てないのだ。
「ところで、テーブルを彩る花は赤で良かったのですか?」
帝国の式典は青が主流でしょう? と私は話題を変える。
「いいんだ。俺の国なのだから、俺の好きな色にする」
異論は認めない、と暴君らしく言い放つセルヴィス様。
「昔は赤い花なんて嫌いだと言っていませんでした?」
私が揶揄うようにそう問えば、
「生きていれば好みも変わるだろ」
だって、赤はリィルの色だからとセルヴィス様が私の髪に留まる赤い花を指す。
「まぁ、そんなわけで。リィルも犬派に鞍替えさせてみせるから、覚悟しておくといい」
不敵に微笑むセルヴィス様は、私の髪を掬うとキスを落とす。
セルヴィス様の挑発を受け、私は大事なことを伝え忘れていたと思い出す。
「鞍替え、はしないと思います」
怪訝そうなセルヴィス様に耳を貸してと屈んでもらい、
「実は私、根っからの犬派なんです。猫派はイザベラ」
と最後の偽りを正す。
セルヴィス様がリィルを望んでくれたから、厭われ、偽物姫だった私はもういない。
「今日も素敵な日にしましょうね、ヴィー」
尻尾が出ていたら全力で振っていそうなセルヴィス様に抱え上げられ、私は偽物姫に終わりを告げたのだった。
耳に馴染む声で私の意識は今に戻る。
「いえ、ただ約束が果たせる日が来て嬉しいな、と。シエラたちに会えるのも久しぶりですし、それに……」
私は紫紺の瞳とヴァイオレットブルーの長い髪をした社交界の華だった彼女のことを思い出す。
私と同じ、偽物を演じていた彼女。
彼女は獄中で自殺したことになっているが、今は名を変え彼女を知るヒトのいない地で彼女の王子様と共にその才を発揮している。
これから先も監視が外れることはないだろうけれど。
「見逃してくれて、ありがとうございました」
「覚えがないな」
セルヴィス様はそう言って紺碧の瞳を瞬かせる。
全部を飲み込んでしまいそうな夜のような人だから、きっとこの程度の秘密を飲み込むなんて彼には大した事ではないのだろう。
「いいえ、なんでも」
だから、私も全部全部飲み込んで、
「本日は皇帝陛下の寵愛を受けるたった一人の妃を堂々と演じてみせますね。例の演劇のモデルだと期待されてますし」
堂々と彼の隣で顔をあげようと思う。
セルヴィス様が私が正妃になるなら不要だとなくしてしまったので、この国にはもう後宮は存在しない。
とはいえこれから先も野心の多い貴族達との化かし合いは続くだろうから、契約妃だった時以上に頑張らねばと気合いを入れる私。
そんな私をじっと見たセルヴィス様は、
「寵愛は演技じゃないんだが、我が妃は随分疑り深いようだ」
不満気な声を上げる。
「えっと、それはモノの例えといいますか」
やばい、なんか余計なスイッチ踏んだと焦る私を前に揶揄うように口角を上げるセルヴィス様。
「リィルには身をもって理解してもらわなくては、な?」
獲物を捕食する狼みたいな紺碧の瞳に捕まって抗えなくなった私の視界は狭まり、そのままセルヴィス様に口付けられた。
「ヴィー、これ以上はだめっ」
何度目かの触れ合いの後、白旗をあげた私から名残惜しそうに離れたセルヴィス様は、
「仕方ない。今はこれで勘弁してやる」
そう言って私の手を取り指先に甘噛みした。
「なっ、もう! ……せめて場所は考えてください」
「人払いはしてあるが?」
「そういう問題じゃ」
外だと咎める声は色香を隠さないセルヴィス様の甘い声にかき消され、私の言葉は行き場を失う。
せめてもと睨んでみるが、
「ふはっ、そんな顔をしても可愛いだけだぞ」
私の天色の瞳には上機嫌なセルヴィス様が映るだけ。
「ようやく君を正妃にできる、とこれでも浮かれているんだ。大目に見て欲しい」
甘えるようにそう言われ、自分でもじわじわと頬に熱を持つのが分かる。
結局のところ、私はこの人に勝てないのだ。
「ところで、テーブルを彩る花は赤で良かったのですか?」
帝国の式典は青が主流でしょう? と私は話題を変える。
「いいんだ。俺の国なのだから、俺の好きな色にする」
異論は認めない、と暴君らしく言い放つセルヴィス様。
「昔は赤い花なんて嫌いだと言っていませんでした?」
私が揶揄うようにそう問えば、
「生きていれば好みも変わるだろ」
だって、赤はリィルの色だからとセルヴィス様が私の髪に留まる赤い花を指す。
「まぁ、そんなわけで。リィルも犬派に鞍替えさせてみせるから、覚悟しておくといい」
不敵に微笑むセルヴィス様は、私の髪を掬うとキスを落とす。
セルヴィス様の挑発を受け、私は大事なことを伝え忘れていたと思い出す。
「鞍替え、はしないと思います」
怪訝そうなセルヴィス様に耳を貸してと屈んでもらい、
「実は私、根っからの犬派なんです。猫派はイザベラ」
と最後の偽りを正す。
セルヴィス様がリィルを望んでくれたから、厭われ、偽物姫だった私はもういない。
「今日も素敵な日にしましょうね、ヴィー」
尻尾が出ていたら全力で振っていそうなセルヴィス様に抱え上げられ、私は偽物姫に終わりを告げたのだった。


