秘密のカランコエ〜敏腕ドクターは愛しいママと子どもを二度と離さない〜
「はっ……!」
目覚めると病室のカーテン越しに朝陽が射し込んでいた。時計をふと見ると七時を少し回っていた。
私は慌ててエレベーターホールに出て、事務所に電話をかけた。からんこえは二十四時間対応の訪問看護ステーションだから、早朝でも必ず誰かが出てくれる。
今日は所長が夜勤当番だった。
「昨日の夜、娘が救急搬送されて……。急遽、付き添い入院することになりましたので、お休みをしばらくいただきたく……」
なるべく簡潔に内容を伝え、謝罪をして電話を終える。
所長は「お大事にね! 何かあったら助けになりたいし相談してよね!」と明るく私に言ってくれた。
そのあたたかい言葉と包み込むような優しい声に、思わず涙が出そうになったのを必死に堪えた。
深呼吸をして、病室に戻る。
すると、ちょうど彩花が目を覚まして私を探していたようだ。
「ママ……?」
「おはよう、彩花」
「おはよう」
「ねぇここどこ?」
彩花は眠気が薄らと残る目元を擦りながら私に聞く。
「ここはね、病院だよ。昨日の夜ハアハアしてお胸が苦しくなっちゃったよね」
「うん」
「だから救急車で病院に来たんだよ。そしたらね、お医者さんが彩花のハアハアしちゃった理由を調べたいから、お泊まりしてほしいってお願いだったの」
「そうなの? じゃあママも一緒にお泊まりするの?」
「うん、ママもお泊まりだよ」
「そっかー!」
彩花は不安そうに眉をひそめながらも、私の胸に顔を埋めると安心したように小さく頷いた。
私がしっかりしなければ。この子には私しかいないのだから。
──それからは、想像を超える私だけの孤独な闘いが待っていた。
子ども用の小さなベッド。添い寝をして彩花の不安を取り除く。慣れない体勢で眠るから、夜が明けるたびに身体のあちこちが痛んだ。
彩花がぐっすり寝た時だけベッドの隣に設置された備え付けの折りたたみベッドに横になる。
食事は簡単に食べられるパンやカップ麺、レトルト食品、フリーズドライの味噌汁やスープ類。入浴もシャワーのみで短く済ませるからゆっくり湯船に浸かることはできない。
『救急外来受診時の胸のレントゲン、心電図、そして聴診、入院してからのエコー検査の結果から心房中隔欠損症だと確定できました。治療については状態が安定したら別の病院へ転院して──』
主治医の先生からの説明をやっと受け入れることが出来た頃には、心身共に限界が近づいていた。
昼間は彩花に笑顔を見せるけれど、夜になると今後のことで不安が押し寄せる。
消灯後に遠くの部屋から聞こえてくるモニターのアラーム音や泣き声がやけに大きく聞こえてくる。
私は天井を見つめた。
(私のせいだ……)
私が健康に産んであげられなかったせい。
私が自分勝手で独りよがりな願いを叶えてしまったせい。
私が彼の愛を振り払って裏切ったせい。
神様が罰を与えたんだ。
そう思うと、申し訳なさで涙が溢れてくる。
疲れが溜まると、ネガティブになってしまうのはわかりきっていた。
「ごめんね、ごめんね……」
独りだけの付き添い入院がこれほど辛いとは思わなかった。
もし、宗一郎さんが父親としてここにいたら──。
今まで考えないようにしていたことまで思い描いてしまう。
彩花の方をふと見ると、すうすうと可愛らしい寝息を立ててぐっすり眠っていた。
私は起こさないようにそっと子ども用ベッドから降りて、折りたたみベッドに横になる。
まぶたを閉じると、胸の奥にしまい込んできた思いと記憶が混ざりあって、走馬灯のような夢に誘われた。
目覚めると病室のカーテン越しに朝陽が射し込んでいた。時計をふと見ると七時を少し回っていた。
私は慌ててエレベーターホールに出て、事務所に電話をかけた。からんこえは二十四時間対応の訪問看護ステーションだから、早朝でも必ず誰かが出てくれる。
今日は所長が夜勤当番だった。
「昨日の夜、娘が救急搬送されて……。急遽、付き添い入院することになりましたので、お休みをしばらくいただきたく……」
なるべく簡潔に内容を伝え、謝罪をして電話を終える。
所長は「お大事にね! 何かあったら助けになりたいし相談してよね!」と明るく私に言ってくれた。
そのあたたかい言葉と包み込むような優しい声に、思わず涙が出そうになったのを必死に堪えた。
深呼吸をして、病室に戻る。
すると、ちょうど彩花が目を覚まして私を探していたようだ。
「ママ……?」
「おはよう、彩花」
「おはよう」
「ねぇここどこ?」
彩花は眠気が薄らと残る目元を擦りながら私に聞く。
「ここはね、病院だよ。昨日の夜ハアハアしてお胸が苦しくなっちゃったよね」
「うん」
「だから救急車で病院に来たんだよ。そしたらね、お医者さんが彩花のハアハアしちゃった理由を調べたいから、お泊まりしてほしいってお願いだったの」
「そうなの? じゃあママも一緒にお泊まりするの?」
「うん、ママもお泊まりだよ」
「そっかー!」
彩花は不安そうに眉をひそめながらも、私の胸に顔を埋めると安心したように小さく頷いた。
私がしっかりしなければ。この子には私しかいないのだから。
──それからは、想像を超える私だけの孤独な闘いが待っていた。
子ども用の小さなベッド。添い寝をして彩花の不安を取り除く。慣れない体勢で眠るから、夜が明けるたびに身体のあちこちが痛んだ。
彩花がぐっすり寝た時だけベッドの隣に設置された備え付けの折りたたみベッドに横になる。
食事は簡単に食べられるパンやカップ麺、レトルト食品、フリーズドライの味噌汁やスープ類。入浴もシャワーのみで短く済ませるからゆっくり湯船に浸かることはできない。
『救急外来受診時の胸のレントゲン、心電図、そして聴診、入院してからのエコー検査の結果から心房中隔欠損症だと確定できました。治療については状態が安定したら別の病院へ転院して──』
主治医の先生からの説明をやっと受け入れることが出来た頃には、心身共に限界が近づいていた。
昼間は彩花に笑顔を見せるけれど、夜になると今後のことで不安が押し寄せる。
消灯後に遠くの部屋から聞こえてくるモニターのアラーム音や泣き声がやけに大きく聞こえてくる。
私は天井を見つめた。
(私のせいだ……)
私が健康に産んであげられなかったせい。
私が自分勝手で独りよがりな願いを叶えてしまったせい。
私が彼の愛を振り払って裏切ったせい。
神様が罰を与えたんだ。
そう思うと、申し訳なさで涙が溢れてくる。
疲れが溜まると、ネガティブになってしまうのはわかりきっていた。
「ごめんね、ごめんね……」
独りだけの付き添い入院がこれほど辛いとは思わなかった。
もし、宗一郎さんが父親としてここにいたら──。
今まで考えないようにしていたことまで思い描いてしまう。
彩花の方をふと見ると、すうすうと可愛らしい寝息を立ててぐっすり眠っていた。
私は起こさないようにそっと子ども用ベッドから降りて、折りたたみベッドに横になる。
まぶたを閉じると、胸の奥にしまい込んできた思いと記憶が混ざりあって、走馬灯のような夢に誘われた。