秘密のカランコエ〜敏腕ドクターは愛しいママと子どもを二度と離さない〜
「よろしくお願いします」
「まずは痰吸引の手技からですが──」

 それに、宗一郎さんはたった一週間の期限付きで結城家にいるだけ。
 次の訪問で会うのが最後だ。なんとか乗り切れるだろう。
 そう胸の中で唱えていると落ち着きを取り戻せた。 
 私は宗一郎さんに近づいて吸引器や吸引カテーテルやその他の物品を手に取り、一通り操作をして見せる。

「もしかしたら矢越先生……矢越さんはやり方を既にご存知かもしれませんが」
「いや、そんなことない。」
 真紀さんは宗一郎さんと交代してリビングの方で翔太くんと遊んでいるようだった。
 今、宗一郎さんから逃げることはできない。
 思いっきり息を吸って勢いよく吐く。気合いを入れるルーティンだ。

「では、まずは必要物品からです」
 私はなるべく必要最低限の説明を淡々とこなす。
 宗一郎さんは真剣に頷きながら説明を聞いてくれる。

 たった一週間の助っ人をするために、こんな熱心に、まるで自分の子どものためかのように学ぶ姿勢に思わず関心してしまう。
 宗一郎さんに甥がいるとは聞いていたけれど、まさかこんな愛情を注いでいるとは知らなかった。
 私が今まで知らなかった姿を、偶然の再会を通して知ることができたのを正直嬉しく思ってしまう。

「こんな感じで気切部から吸います。カテーテルは指先を擦り合わせるみたいな感じで、このように回転させてください。圧の集中を防いで粘膜を傷つけるのを予防できます。そして、最後に紙コップに入れていたお水を吸って連結管の中を綺麗にして……」

 なんとか説明が終わる。十分以内といったところか。
 さすが宗一郎さん。この説明だけで手技や注意点を完璧にマスターしていた。

「ありがとう。わかりやすい説明だったよ」
「いえいえ。矢越さんも理解が早くて驚きました。さすがですね」
 穏やかな雰囲気が漂う。
 その後、真紀さんと家庭での過ごし方や情報共有、訪問記録のサインをいただき、次回の訪問についての連絡などをした。
 訪問看護師と利用者家族。しかも期限つきの再会。なんとか何事もなく終えられそうだと思っていた。
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