猫になった私を拾ったのは、私に塩対応な婚約者様でした。
「バカみたい」
8歳で婚約者に選ばれて10年。王子妃になるための道のりは随分厳しいモノだった。
淑女としての嗜みとマナーから始まり、貴族名鑑を全て覚え、社交術、歴史、政治、経済学などなどありとあらゆる教養を叩き込まれた。
ダンスは特に苦手で足の裏が擦り切れるほど練習した。
でも、それらは全部無駄だったわけだ。
「ああ、本当。バカみたい」
初めて会った時からそっけなく、あまり笑わないルーク様だったけど、一緒に時間を重ねていけばいつか心の距離は縮まると思っていた。
もう嫌だと本当に投げ出しそうになる度に、ルーク様が助け船をさりげなく出してくれていたから。
そんな優しさが大好きで。
彼の妻になれるなら、とどんなことでも耐えられた。
潔癖なほど真面目で誠実、融通の利かなさから冷たい印象を与え氷壁の王子なんて呼ばれるルーク様。
王太子殿下のお立場は盤石で、第三王子として生まれた彼が王位につく可能性は低い。
だからこそいずれ王弟となった時、兄である陛下を支え、国を守るため自分にも他者にもお厳しいだけだ。
そう思っていたから、友人達が婚約者と交流し仲を深めていくのを羨ましく思ってもルーク様の手を煩わせるようなわがままは一切言わなかった。
でも、現実はどうだ?
いつも公務に追われていると思っていたルーク様は、私の知らないところでファーストネームで呼ばせるほどシェリルと親しい仲を育んでいたらしい。
『彼、本当はとっても甘えん坊なのよ。あなたといると息が詰まるんですって』
シェリルがルーク様を狙っていることは知っていた。
嫌がらせされていたのは私の方。
さも自分が被害者であるかのようにルーク様に泣きついていた事も知っている。
それでも、ルーク様はシェリルなんか相手にしないと。
私との婚約は揺らがないと。
信じていた。
『あなた、本当にルーク様の事を何一つ分かっていないのね?』
嘲笑と共にシェリルが見せつけたのはルーク様の制服のネクタイ。
恋人同士で交換するのが今の流行りである事くらい交友関係が狭い私でも知っている。
耐えて耐えて耐えていた何かがぷつっと切れ、私はシェリルの安い挑発に乗ってしまった。
なんだったんだろう、この10年は。
そう思ったら情けなくて。
悔しくて。
涙で視界が滲んだ。
きっとこれから大々的に婚約破棄されて、汚名を着せられ断罪される。
まぁ確かに最後は手を出したのだから全く非がないとは言えないが。
これから先の対策を考えるためにも、一刻も早くここから立ち去ろう。
そう思って階段に足を踏み出した時だった。
「……えっ?」
タイミング良く靴が壊れ、ふわりと身体が浮き、真っ逆さまに落ちていった。
前世での死に方なんて覚えていないけれど、詰んだあとに更に詰むなんて。
こんな展開は聞いてないっ!
作者、どれだけ"ミリア"の事が嫌いなんだよっ! と悪態をついた私は。
「もし、来世があるなら」
次は猫になりたい。
自由気ままに生きられる猫に。
この世界の神様は信じられなくて、それ以外の誰かに祈った私は、"今世はこれでさよならね"と全部を諦めた。
……が。
身体は私の意思とは関係なくくるりと回転し、ストンと軽い足取りで綺麗に着地してみせる。
生きて、る?
私は信じられず、大きな丸い目をパシパシと何度も瞬く。
おかしい。
あんな高さから落ちて無事だなんて。
元々身体能力が高いならともかく、ダンスもまともに踊れないくらい運動音痴なのに?
んんんん?
と頭に疑問符を浮かべていると、他にもおかしな点に気づいた。
床に落ちている靴はともかく、何故か制服が落ちている。
胸元のペンは間違いなく私のモノで、それがそこにあるということはこの制服は今日私が着ていたもののはずだけど。
何故こんなに大きいの?
不思議に思っていると、ミリアと呼ぶ声と追いかけて来るような足音が聞こえた。
やばい、早く立ち上がって逃げなくては、と思ったけれど立てない。
痛みはないけどまさか折れた?
否、違う。
立っているのだ。四つ足で。
「にゃ、にゃー!?(なにこれーー!?)」
混乱する私の口から発せられたのは、それはそれは可愛いらしい猫の鳴き声だった。
8歳で婚約者に選ばれて10年。王子妃になるための道のりは随分厳しいモノだった。
淑女としての嗜みとマナーから始まり、貴族名鑑を全て覚え、社交術、歴史、政治、経済学などなどありとあらゆる教養を叩き込まれた。
ダンスは特に苦手で足の裏が擦り切れるほど練習した。
でも、それらは全部無駄だったわけだ。
「ああ、本当。バカみたい」
初めて会った時からそっけなく、あまり笑わないルーク様だったけど、一緒に時間を重ねていけばいつか心の距離は縮まると思っていた。
もう嫌だと本当に投げ出しそうになる度に、ルーク様が助け船をさりげなく出してくれていたから。
そんな優しさが大好きで。
彼の妻になれるなら、とどんなことでも耐えられた。
潔癖なほど真面目で誠実、融通の利かなさから冷たい印象を与え氷壁の王子なんて呼ばれるルーク様。
王太子殿下のお立場は盤石で、第三王子として生まれた彼が王位につく可能性は低い。
だからこそいずれ王弟となった時、兄である陛下を支え、国を守るため自分にも他者にもお厳しいだけだ。
そう思っていたから、友人達が婚約者と交流し仲を深めていくのを羨ましく思ってもルーク様の手を煩わせるようなわがままは一切言わなかった。
でも、現実はどうだ?
いつも公務に追われていると思っていたルーク様は、私の知らないところでファーストネームで呼ばせるほどシェリルと親しい仲を育んでいたらしい。
『彼、本当はとっても甘えん坊なのよ。あなたといると息が詰まるんですって』
シェリルがルーク様を狙っていることは知っていた。
嫌がらせされていたのは私の方。
さも自分が被害者であるかのようにルーク様に泣きついていた事も知っている。
それでも、ルーク様はシェリルなんか相手にしないと。
私との婚約は揺らがないと。
信じていた。
『あなた、本当にルーク様の事を何一つ分かっていないのね?』
嘲笑と共にシェリルが見せつけたのはルーク様の制服のネクタイ。
恋人同士で交換するのが今の流行りである事くらい交友関係が狭い私でも知っている。
耐えて耐えて耐えていた何かがぷつっと切れ、私はシェリルの安い挑発に乗ってしまった。
なんだったんだろう、この10年は。
そう思ったら情けなくて。
悔しくて。
涙で視界が滲んだ。
きっとこれから大々的に婚約破棄されて、汚名を着せられ断罪される。
まぁ確かに最後は手を出したのだから全く非がないとは言えないが。
これから先の対策を考えるためにも、一刻も早くここから立ち去ろう。
そう思って階段に足を踏み出した時だった。
「……えっ?」
タイミング良く靴が壊れ、ふわりと身体が浮き、真っ逆さまに落ちていった。
前世での死に方なんて覚えていないけれど、詰んだあとに更に詰むなんて。
こんな展開は聞いてないっ!
作者、どれだけ"ミリア"の事が嫌いなんだよっ! と悪態をついた私は。
「もし、来世があるなら」
次は猫になりたい。
自由気ままに生きられる猫に。
この世界の神様は信じられなくて、それ以外の誰かに祈った私は、"今世はこれでさよならね"と全部を諦めた。
……が。
身体は私の意思とは関係なくくるりと回転し、ストンと軽い足取りで綺麗に着地してみせる。
生きて、る?
私は信じられず、大きな丸い目をパシパシと何度も瞬く。
おかしい。
あんな高さから落ちて無事だなんて。
元々身体能力が高いならともかく、ダンスもまともに踊れないくらい運動音痴なのに?
んんんん?
と頭に疑問符を浮かべていると、他にもおかしな点に気づいた。
床に落ちている靴はともかく、何故か制服が落ちている。
胸元のペンは間違いなく私のモノで、それがそこにあるということはこの制服は今日私が着ていたもののはずだけど。
何故こんなに大きいの?
不思議に思っていると、ミリアと呼ぶ声と追いかけて来るような足音が聞こえた。
やばい、早く立ち上がって逃げなくては、と思ったけれど立てない。
痛みはないけどまさか折れた?
否、違う。
立っているのだ。四つ足で。
「にゃ、にゃー!?(なにこれーー!?)」
混乱する私の口から発せられたのは、それはそれは可愛いらしい猫の鳴き声だった。