想いと共に花と散る
 考えたって分からないことなど明白なのに、どうしても考えてしまった。
 朝の気配を残したまま静まり返る縁側。雪は庭に向かって腰を下ろし、ぼんやりと砂利を見つめていた。

「——……こんなとこに一人で何してんだよ」

 聞き慣れた声に顔を上げると、藤堂が手を振って立っていた。
 その後ろに、変わらぬ無表情の斎藤が控えている。

「あ、平助君……斎藤さん」
「探したぞー。近藤さんが動いた直後に姿が見えなくなったからさ」

 藤堂は軽い調子で言いながら、雪の隣に腰を下ろした。
 久方ぶりの組み合わせだ。池田屋事件前に一度見たきり、しばらく目にしていなかった気がする。
 隣りに座った藤堂の額には、今までは着けていなかったバンダナのような布が巻かれている。池田屋事件で額に傷を負い、それを隠すためなのだろう。
 斎藤は少し離れた場所で立ち止まり、庭を見渡していた。

「……伊東に会ったな」

 斎藤の低い声に、雪は小さく頷いた。
 少し前に初めて存在を知った一人の隊士。その隊士はずっと前から新撰組の影で動いていたのだ。
 それに気付いていたのは、近藤でも藤堂でもなく、居場所を奪われた山南であった。
 すると藤堂が、何処か誇らしげに口を開く。

「驚いただろ? あの人、頭も切れるし、話も通じる。これからの新撰組には、ああいう人間が必要なんだよ」
「平助君が……連れてきたんだね」
「おう。俺が京で知り合ってさ。最初は学者肌の人かと思ったけど、違った」

 頭で考える前に行動に出る性質の藤堂ですら、伊東の博識さは感じられるのだろう。
 やはり、伊東と山南は似て非なる存在だ。互いに学があるとしても、その根底にある“誠”は違う。
 藤堂は空を仰ぎ、少しだけ真面目な顔になった。

「この先、新撰組は“剣だけ”じゃやっていけねぇ。長州だって、ただの敵じゃない。政治も、理屈も絡んでくる」

 その言葉に、雪は胸の奥がざわつくのを感じた。
 これまでは任務出て、時に人を斬り、その功績を称えられた。しかし、これからはそうではなくなることは目に見えている。

「伊東先生は、そこを分かってる。近藤さんも……それを分かってくれたから、呼ばれたんだ」

 藤堂の言葉に、斎藤が短く息を吐いた。
 建物の柱に背を預けて空を見上げていた斎藤は、視線を足元へと落とす。

「有能なのは確かだ」
「だろ?」

 藤堂は天を仰いでいた顔を下げ、即座に返した。斎藤に向ける目には、微かな喜びが滲んでいる。
 自分が信じて尊敬する相手を認められて嬉しい、と言ったところだろう。
 だが、斎藤の視線は何処か冷えたままだった。

「だが、剣を抜かずに人を動かす者は、刃より扱いが難しい」
「……だからこそだろ。今の新撰組には、ああいう“違う刃”も必要なんだ」

 雪は二人の会話を聞きながら、伊東の糸のような目を思い出していた。
 笑っているのに、何も預けていない目。
 獲物を狩る獣の如き鋭い目は、思い出すだけでも身震いする。

「……山南さんがいた頃とは、違うんですね」

 ぽつりと溢れた言葉に、藤堂の表情が僅かに揺れた。

「……ああ。もう、同じやり方じゃいられねぇ」

 斎藤は何も言わず、ただ視線を遠くへ向けた。
 雪は気づいてしまった。
 伊東が来たから新撰組が変わるのではない。変わらざるを得ない新選組に、伊東が呼ばれたのだと。
 その流れの中で、山南敬介の居場所はもう何処にも残っていなかった。
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