酒好きがバレて追放された元聖女ですが、不眠症の辺境伯様と【秘密の晩酌】はじめました 〜昼は冷徹、夜は甘々。ほろ酔い旦那様の執着愛が止まりません〜
 馬車に揺られること数週間。
 到着した辺境伯領は、想像を絶する極寒の地だった。

 窓の外は一面の雪景色。
 空は鉛色で、吹き付ける風が馬車の窓をガタガタと揺らしている。

 そして目の前に現れたのは、断崖絶壁にそびえ立つ黒い城壁。
 通称、『氷の城』。

「……寒い。物理的に」

 馬車を降りた瞬間、肌を刺すような冷気が襲ってきた。
 吐く息は真っ白で、まつ毛が凍りそうだった。

 お酒を冷やす手間は省けるけれど……飲む前に私が凍死しかねない。

 出迎えに現れたのは、この地の領主、フロスティ・イースフェルド辺境伯だった。

「ようこそ、アマレッタ殿」

 銀色の髪に、凍てつくようなアイスブルーの瞳。
 整った顔立ちは氷の彫刻のように美しいけれど――それ以上に、気になったことが一つ。

(顔色、悪っ!)

 目の下には深いクマ。
 肌は土気色で、今にも倒れそうなほど痩せている。

「単刀直入に言おう。私は君を歓迎していない」

 フロスティ様は冷たく言い放った。

「これは王命による白い結婚だ。君に愛を囁くつもりもないし、世継ぎも望まない。……私の視界に入らないでくれ」

 ああ、なるほど。
 典型的な「契約結婚」パターン。

 普通の令嬢ならショックで泣き出すところかもしれない。
 でも、私は元聖女で、今はただの酒好きだ。

(衣食住が保証されて、その上「構うな」? ……最高!)

「承知いたしました、辺境伯様。お互い、干渉せずに参りましょう」

 私は聖女スマイル全開で言った。
 昔から、作り笑顔だけは得意なのだ。

 私の返事が意外だったのか、フロスティ様は怪訝そうに眉をひそめたけれど、それ以上何も言わずに背を向けた。

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