酒好きがバレて追放された元聖女ですが、不眠症の辺境伯様と【秘密の晩酌】はじめました 〜昼は冷徹、夜は甘々。ほろ酔い旦那様の執着愛が止まりません〜

9 王都からやってきた商会の会頭にシードルを高く売るために美味しいマルゲリータピザをつくってみた

 カチャリ。
 ティーカップが置かれる音が、やけに大きく響いた。

 氷の城の応接室。
 室温は快適なはずなのに、なぜか肌寒い。
 その原因は、私の隣に座る銀髪の美人――フロスティ様が放出している冷気のせいだ。

「……それで? 我が領のシードルを、その程度の端金で買い叩こうと?」

 フロスティ様の低い声。
 アイスブルーの瞳が、対面に座る小太りの男を射抜いている。

 男の名はカルロ。
 王都に本店を持つ大手商会、「ゴールデン・ホーク商会」の会頭だそうだ。
 金で刺繍された派手な上着に、指には宝石のついた指輪がジャラジャラ。
 いかにも金持ちですという風貌だが、その額には脂汗が滲んでいる。

「い、いえいえ! 滅相もございません辺境伯閣下! ですが、辺境の……その、実績のないお酒ですので、リスクを考慮しますと、これくらいの価格が妥当かと……」

 カルロ会頭はハンカチで汗を拭きながら、へらへらと愛想笑いを浮かべた。

(うわぁ、わかりやすい狸おやじ)

 シードルの噂を聞きつけて飛んできたまでは良かったが、完全に足元を見ている。
 辺境の酒なんてどうせ質が悪いという先入観と、田舎貴族なら騙せるだろうという下心が透けて見えるのだ。

 フロスティ様の眉間のシワが深くなる。

 部屋の観葉植物が凍り始めた。

 まずい。
 このままでは商談決裂どころか、商人が氷像になってしまう。

 私はパンパンと手を叩いた。

「まあまあ、お二人とも。難しい話は一旦置いておきましょう?」

「……アマレッタ」

「ちょうどお昼時です。お腹が空いては良い商談もできません。まずはランチにしませんか?」

 私がニコリと微笑むと、カルロ会頭は救われたような顔をした。

「お、おお! それはありがたい! 辺境伯夫人の手料理とあれば、期待が高まりますなぁ!」

 口ではそう言っているが、目は田舎料理か……と侮っている。

 ふふふ。
 その油断、後悔させてあげましょう。
 私の料理で陥落しなかった者はいないのだから。

 私は席を立ち、厨房へと向かった。
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