酒好きがバレて追放された元聖女ですが、不眠症の辺境伯様と【秘密の晩酌】はじめました 〜昼は冷徹、夜は甘々。ほろ酔い旦那様の執着愛が止まりません〜
 厨房に到着。
 石窯には既に火が入っている。

「さて、今日のメインディッシュは……」

 取り出したのは、前回開発した生食パンの生地だ。
 ただし、今回は発酵時間を調整して、少し粘り気を出してある。

 打ち粉をした台の上に生地を置き、手のひらで押し広げる。
 麺棒は使わない。
 指先で優しく、空気を含ませるように伸ばしていくのがコツだ。

 丸く、薄く。
 縁の部分だけは少し厚めに残して土手を作る。

 そこに塗るのは、完熟トマトを煮詰めた特製ソース。
 ニンニクとオレガノを効かせた、パンチのある味だ。

 そして、本日の主役は……。

 タッパーから取り出したのは、白い塊。
 以前つくった『クリームチーズの味噌漬け』――の、応用版だ。
 今回はモッツァレラチーズに近いフレッシュなチーズを、白味噌と塩麹の液に短時間くぐらせてある。

 これを手でちぎり、トマトソースの海の上に散りばめる。
 赤と白のコントラストが美しい。

 仕上げに、厨房の窓辺で育てていたフレッシュバジルを数枚。
 最後に、最高級のエキストラバージンオリーブオイルをたっぷりと回しかける。

 そのまま高温の石窯へ滑り込ませる。

 ゴオオオオッ!

 薪の炎が生地を舐める。
 四百度を超える熱風が、瞬時に水分を飛ばし、旨味を閉じ込める。

 生地の縁がぷっくりと膨らみ、焦げ目がつく。
 チーズが溶け出し、グツグツと沸騰してトマトソースと混ざり合う。

 香ばしい小麦の匂い。
 焼けたチーズの濃厚な香り。
 爽やかなバジルの香り。

「完成! ピッツァ・マルゲリータ!」

 私は焼き立てのそれを木のボードに乗せ、急いで応接室へと運んだ。
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