酒好きがバレて追放された元聖女ですが、不眠症の辺境伯様と【秘密の晩酌】はじめました 〜昼は冷徹、夜は甘々。ほろ酔い旦那様の執着愛が止まりません〜
そして、夜。
恒例となりつつある【秘密の晩酌】の時間だ。
厨房に現れたフロスティ様は、いつもより険しい顔をしていた。
「……アマレッタ」
「はい、こんばんは。今日もお疲れ様です」
私は笑顔をつくってみた。
うまく笑えてるかな……。
彼は眉間の皺を深くして詰め寄ってきた。
「君は、昼間、一体何をした?」
「何って……掃除と、風邪薬代わりの生姜湯を振る舞っただけですが」
「『だけ』だと? 使用人たちの目の色が違う。私の言うことより君の言葉を優先しそうな勢いだ。『女神様』と、気味が悪いくらいだぞ」
「皆さんが元気になったのなら、結果オーライでは?」
「……限度がある。君は聖女の力を失ったのではなかったのか?」
鋭い指摘。
ここで「実は聖女の力が残ってます」と言うと、また聖女業務を押し付けられかねない。
それは断固拒否したい。
「さあ? 残りカスみたいなものですよ。それより辺境伯様、難しい顔をしてると老けますよ?」
私は話題をそらすために、用意していたマグカップを差し出した。
「今夜はこれです。『ホット・バタード・ラム』」
「……また、訳の分からないものを」
彼は警戒しながらも、カップを受け取った。
ふわりと漂うのは、甘く芳醇な香り。
琥珀色のお湯割りラム酒の表面に、黄金色のバターがとろりと溶けて油膜を作っている。
「ラム酒にお湯と砂糖、スパイス。仕上げにバターを浮かべました。バターのコクが、お酒の角を取ってまろやかにしてくれるんです」
フロスティ様は、溶けゆくバターを目で追いながら、ゴクリと喉を鳴らした。
本能がカロリーと熱を求めているのだ。
彼は意を決して、カップに口をつけた。
ずずっ。
熱い液体が口の中に流れ込む。
バターの濃厚な油分が唇を潤し、ラム酒の独特な甘い香りが鼻腔へ抜ける。
アルコールの熱と、脂肪分のコク。
暴力的なまでの「旨味」と「温もり」の爆弾だ。
「……っ」
フロスティ様の肩が、びくりと跳ねた。
強張っていた表情筋が、とろりと溶けていく。
張り詰めていた神経が、強制的に緩められていく。
「……ずるいぞ、君は」
彼はカップを両手で包み込みながら、潤んだ瞳で私を睨んだ。
睨んでいるつもりなのだろうが、今の彼には微塵も迫力がない。
「こんなに美味いものを……。私が知らない、温かいものを……次々と……」
「お口に合って何よりです」
私が自分の分のグラスを傾けると、フロスティ様はふらりと椅子に座り込んだ。
「……疑って、すまない」
ぽつりと、彼は言った。
「君が何者でも……構わない気がしてきた。……君がいると、城が暖かい」
その言葉は、アルコールのせいか、それとも本心か。
彼の白い頬が、ほんのりと薔薇色に染まっている。
そして――
コテン。
音がしそうな唐突さで、彼はテーブルに突っ伏した。
「……いい匂いだ……バターと……君の……」
スゥ、スゥ……。
寝た。
今日も秒殺である。
私は苦笑しながら、眠る辺境伯様の銀髪を指で梳いた。
サラサラしていて気持ちいい。
使用人には崇拝され、城主には枕にされ。
私の干渉しないという契約結婚プランは、早くも崩壊の危機に瀕している気がする。
ま、この美味しいラム酒が飲めるなら、多少のことは目をつぶろう。
私は窓の外の吹雪を肴に、残りの酒をあおった。
今夜も、氷の城の厨房は平和だった。
――――――――――――――――――
【★あとがき★】
「面白かった」
「続きが気になる」
「主人公の活躍が読みたい」
と思ったら
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「ひとこそ感想」・「感想」も是非!
恒例となりつつある【秘密の晩酌】の時間だ。
厨房に現れたフロスティ様は、いつもより険しい顔をしていた。
「……アマレッタ」
「はい、こんばんは。今日もお疲れ様です」
私は笑顔をつくってみた。
うまく笑えてるかな……。
彼は眉間の皺を深くして詰め寄ってきた。
「君は、昼間、一体何をした?」
「何って……掃除と、風邪薬代わりの生姜湯を振る舞っただけですが」
「『だけ』だと? 使用人たちの目の色が違う。私の言うことより君の言葉を優先しそうな勢いだ。『女神様』と、気味が悪いくらいだぞ」
「皆さんが元気になったのなら、結果オーライでは?」
「……限度がある。君は聖女の力を失ったのではなかったのか?」
鋭い指摘。
ここで「実は聖女の力が残ってます」と言うと、また聖女業務を押し付けられかねない。
それは断固拒否したい。
「さあ? 残りカスみたいなものですよ。それより辺境伯様、難しい顔をしてると老けますよ?」
私は話題をそらすために、用意していたマグカップを差し出した。
「今夜はこれです。『ホット・バタード・ラム』」
「……また、訳の分からないものを」
彼は警戒しながらも、カップを受け取った。
ふわりと漂うのは、甘く芳醇な香り。
琥珀色のお湯割りラム酒の表面に、黄金色のバターがとろりと溶けて油膜を作っている。
「ラム酒にお湯と砂糖、スパイス。仕上げにバターを浮かべました。バターのコクが、お酒の角を取ってまろやかにしてくれるんです」
フロスティ様は、溶けゆくバターを目で追いながら、ゴクリと喉を鳴らした。
本能がカロリーと熱を求めているのだ。
彼は意を決して、カップに口をつけた。
ずずっ。
熱い液体が口の中に流れ込む。
バターの濃厚な油分が唇を潤し、ラム酒の独特な甘い香りが鼻腔へ抜ける。
アルコールの熱と、脂肪分のコク。
暴力的なまでの「旨味」と「温もり」の爆弾だ。
「……っ」
フロスティ様の肩が、びくりと跳ねた。
強張っていた表情筋が、とろりと溶けていく。
張り詰めていた神経が、強制的に緩められていく。
「……ずるいぞ、君は」
彼はカップを両手で包み込みながら、潤んだ瞳で私を睨んだ。
睨んでいるつもりなのだろうが、今の彼には微塵も迫力がない。
「こんなに美味いものを……。私が知らない、温かいものを……次々と……」
「お口に合って何よりです」
私が自分の分のグラスを傾けると、フロスティ様はふらりと椅子に座り込んだ。
「……疑って、すまない」
ぽつりと、彼は言った。
「君が何者でも……構わない気がしてきた。……君がいると、城が暖かい」
その言葉は、アルコールのせいか、それとも本心か。
彼の白い頬が、ほんのりと薔薇色に染まっている。
そして――
コテン。
音がしそうな唐突さで、彼はテーブルに突っ伏した。
「……いい匂いだ……バターと……君の……」
スゥ、スゥ……。
寝た。
今日も秒殺である。
私は苦笑しながら、眠る辺境伯様の銀髪を指で梳いた。
サラサラしていて気持ちいい。
使用人には崇拝され、城主には枕にされ。
私の干渉しないという契約結婚プランは、早くも崩壊の危機に瀕している気がする。
ま、この美味しいラム酒が飲めるなら、多少のことは目をつぶろう。
私は窓の外の吹雪を肴に、残りの酒をあおった。
今夜も、氷の城の厨房は平和だった。
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【★あとがき★】
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