キミと、世界の果てまで。
***



結局、夢の中にクロスは現われないまま、朝を迎えた。


小鳥のさえずりを耳にする朝は、きっと気分が良い筈なのに、今日だけ例外。



いつもなら誰よりも早く起きているお母さんは、いつまで経ってもダイニングに姿を現さないし、お父さんは朝早くに仕事に向かったみたいだ。


朱里は昨日のショックが原因で熱を出し、今日は中学を休ませた。


家族愛でさえも、チャームは奪い去ってしまうのか。



オレンジジュースを一気飲みしたあたしは、パン…!と勢い良く頬を叩くと、自分で作ったお弁当を片手に、家を出た。



朱里にもう、辛い思いはさせたくない。


あたしのお父さんとお母さん、寛司のおじさんとおばさんを、元に戻してあげたい。


愛海ちゃんの泣き顔を、見たくない。



もう、誰かが傷付くのはイヤだ―――!



そうやって心が叫びを発していると、あたしの少し前を歩いていたサラリーマン風の若い男の人が、こっちを振り向いた。


ギロッ…!という鋭い視線が、あたしを貫く。



何だろう…と疑問に思った次の瞬間、男の人がいきなりあたし目掛けて走ってきた。




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