桜の木の誓い
――新選組。
その言葉がはっきりと頭に浮かぶ。
京の治安維持を主とした武家出身ではない者達が多く属していた組織。
学校での課題レポートで確かそう書いたのを優真は覚えていた。
そして、そこの幹部の有名どころの名が今優真の目の前にいる二人と見事に一致する。 そういえば、幹部の殆どは江戸にあった試衛館という道場の門弟や食客だった筈だ。
優真は何故初めに沖田の名を聞いたときに引っ掛かったのかが今頃分かった。
自分は歴史的人物、つまり新撰組としてまだ有名になっていない時の二人と対面しているのだ。
「大丈夫かい?」
「あっ…すいません。 私は……家族も家もないようなものです」
どこか興奮した様子で思考に耽っていた優真が、近藤の声で我へと返って咄嗟に出た言葉はそれだった。
「…そうか。 なら此処にいたらいい。 女子で帰るところもないとは辛いだろう。 こうして出会ったのも何かの縁だ」
顎に手をやり難しい顔をしたのは一瞬のことで、近藤は温かな微笑を浮かべるとポンポンと優真の頭を優しく叩く。
(随分と優しい人なんだ、近藤さんって。 こんな見ず知らずの私を簡単に置くなんて)
そんな事を思いながらも言い出したのは自分だ。 同情にしろ何にしろ、直ぐに了承してくれたことにホッと安堵の息を洩らした。
(一先ずは安心していい…か。 早く帰る方法を見つけないと)
きっと直ぐに見つかる、優真は自分に言い聞かせるように心の中で呟いた。
その日は色々な事があって疲れたのだろう。
近藤の奥さんであるおつねが運んできてくれた御飯を平らげると、優真は早々と眠りに就いたのだった。