桜の木の誓い
翌朝、昨夜早寝したせいなのか朝早くに目が覚めた優真は、道場らしき場所に立っていた。

今の優真は慣れない女物の着物ではなく、おつねに頼み込んで用意してもらった多少馴染みのある袴に身を包んでいる。


驚いたことに、優真が此方に来た時に着ていたブレザーは自分が知らぬ間に脱がされ、洗濯されていた。

誰がそれを実行したのかと思うと些か不安が掠めたが、恐らくおつねだろう。というか、そうであってほしい。




「懐かしい…」


優真は立て掛けてあった竹刀を手に取ると、久々のその感触を噛み締める。

特にする事もなかったので、ふらふらと当てもなく脚を進めて見付けたこの場所に、少しだけ気分が高揚した。


剣道部の顧問を務めていた祖父に、何となくではあるが幼少から習っていた優真。家の庭や近所の道場を借りてよく稽古をしたものだ。

しかし、昨年その祖父が亡くなってからは受験生という事も手伝って、極偶に竹刀で素振りをするくらいしかしなくなっていた。


(小さい頃はちゃんばらごっこみたいで楽しんでやってたっけ)


フフッと自然に笑みが洩れる。


暫らくの間、祖父との思い出に浸っていると道場の入口で人の気配がした。



「あんた、なんで袴なわけ?」

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