破   壊
 その日の面談を終えた私は、陰欝な気持ちを消し去る事も出来ずに電車に乗った。

 筧 亮太 27歳

 罪名 殺人

 逮捕時の罪名は、死体遺棄と損壊。

 立件された容疑は、逮捕時の一件だけだったが、彼は裁判中に突然、他に何人も殺していると証言したのだ。

 混乱と騒乱の中で、その日の公判は中止となり、その後、彼の裁判は精神鑑定の結果待ちという状況になった。

 公判中に、他の未解決事件を告白するという突然の言動は、マスコミの格好の餌となった。

 事件当初は、その特異性から、ある程度騒がれはしたが、バラバラ殺人というものが、さほど珍しくもなくなった現代では、数ヶ月もすれば人々の記憶から消えて行く。

 それが、再び社会の脚光を浴びた。

 こういう表現は正しくないが、彼の望んでいるものは、話振りを見る限り、脚光といった方が的を得ているような気がする。

 地下鉄の乗換駅に着き、私は改札口に向かった。

 足取りは重い。

 このまま真っ直ぐ家に戻る気が起きなかった。

 私は携帯電話を取り出し、息子に電話をした。

「もしもし、ママよ。今夜は少し遅くなるから先にご飯食べてて。いつもごめんね」

 中学生の息子は何も聞かず、判ったと一言だけ言った。

 地下鉄の出口から地上に上がる。

 サラリーマン達が駅周辺の居酒屋に吸い込まれて行く。

 笑い声があちこちから聞こえて来る。

 無理にその喧騒の中に溶け込もうとするが、私の心は終始どんよりとしたままだった。

 中年の女が、一人でも気にせず飲めそうな店を探した。





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