破   壊
 筧 亮太が逮捕された事件は、近所に住む見ず知らずの男性を殺害し、バラバラにしたというものであった。

 バラバラにした被害者の遺体の一部を、彼は自宅から一時間以上も車で運び、隣の県の山中に捨てようとしたのである。

 たまたま、その現場を目撃され、現行犯で逮捕されたのだが、彼は当初、警察の調べに対し、完全黙秘をしていた。

 初めて事件について語り出したのは、国選弁護人が決まってからで、彼は弁護人にしか話をしなかった。

 公判の日程が決まり、警察や検察の調書には一切応じないまま、認定で裁判が行われる事になった。

 そして、彼は他にも殺人をしていると証言したのだ。

 この事を一切知らされず、寝耳に水だった国選弁護人が、弁護を辞退するという、異常事態にまでなり、新たな弁護人として私が引き受ける事になったのだ。

 尤も、自発的にという訳ではない。

 籍を置かせて貰っている弁護士事務所に回って来た依頼に、誰も手を挙げなかったが為、私にお鉢が回って来たというだけの事だ。

 自分で事務所など持てないシングルマザーのイソ弁(居候弁護士を縮めた蔑称)には、事務所の代表から言われれば断る訳には行かない。

 野次馬的な見方で事件を眺めている分には、こういった特殊なケースは面白いものだが、自分が関わるとなると気が重くなるものだ。

 彼から私宛てに分厚い手紙が届いたのは、先週の事だった。

 そこには、自分が殺した人間の名前が書き連ねてあった。

 会う前から、私の心に見えない重石を彼は背負わせてくれた。

 実際、今日の初めての面談で、私の精神的疲労は、今迄経験したどれよりも重く、深いものであった。




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