破   壊
 手紙、拝見致しました。

 息子さんが居た事、初めて知りました。

 その息子さんが、僕のせいで人を刺したと書かれてましたが、それが事実なら、僕も悲しいです。

 ただ、僕の悲しみは、先生の悲しみと少し違います。

 僕の涙は、先生が何も気付いていない事に対する慟哭です。

 息子さんの事、何も知りませんが、彼の心の動きを僕は手に取るように理解出来ます。

 先生は、最愛の息子と言いました。

 本当にそうでしたか?

 最愛。

 何よりも、地上の何よりも彼を心から愛してたのですか?

 それは違うと思う。

 先生には、辛い言い方かも知れませんが、彼は先生からの愛を感じられなかったと思うのです。

 僕からの手紙を読んでとありましたが、きっと、彼は僕の言葉の中に、先生の姿を見、そして自分を見てしまっただけなのです。

 彼は僕です。

 先生からの手紙を読んでいると、それがはっきりと判る。

 しっかりと僕が根付いている。

 僕らは運命と、何度となく話しましたね。

 僕は、大地へ戻るんです。

 先生は、その先導役。

 くだらない人間が定めた法に裁かれ、僕は絞首台に消えて行く。

 その事を僕は望んでいないと、前に話したと思います。

 死を恐れてそう言ったのではありません。

 僕が、何故今まで何人もの人間を浄化させて来たか。

 それは、僕自身が浄化される為だったからなんです。

 首を絞められるのは、浄化にならないんだ。

 前にも言ったでしょ。

 僕は、自分自身が鮮血に包まれて、薄汚いこの世界から旅立ちたいんだ。

 僕に、ナイフを突き立てる者。

 それが許される者、それは、先生……

 葉子、君なんだ。

 その日を僕は待っている。

    亮太より

 葉子へ





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