君を愛す ただ君を……
あたしは、痛みがないと自分に言い聞かせた

生まれつき、あたしは心臓が弱い

月に一度、病院に行って診察を受けている

15歳まで生きられるかどうか…って小学生のころに言われた

でも今のあたしの年齢は16歳

もう1年もオーバーしている

あたしの心臓はいつまで、動いてくれるのだろうか?

あたしはそっと胸に手を当てると、まだ終わりが来てほしくないと心の中で呟いた

お願い、もう少し動いてて

もう少し、思い出が欲しいの

越智君としいちゃんと一緒に過ごす時間が欲しいの

「ねえ、知ってる? 明日から、新しい先生が来るらいしよ」

越智君の隣で、廊下を歩いているしぃちゃんが口を開いた

しぃちゃんの手には鞄はない

越智君が、しぃちゃんの鞄を持ってくれている

いつも、そう

越智君が、しぃちゃんの手荷物を持ってくれる

彼女には優しい越智君

しぃちゃんが羨ましいな

去年の春に、あたしが越智君の告白を受け入れていたら、今頃隣を歩いていたのは、あたしだったのかな?

でも、きっと無理ね

あたし、持病があるから

きっと付き合っても、すぐに別れてたと思う

「格好良い先生だといいなあ…ね、陽菜」

「え?」

2人の後ろから、追いかけるように歩いていたあたしにしぃちゃんが声をかえた

あたしは顔を上げると、しぃちゃんの顔を見る

どうしよう…考え事をしてて、しぃちゃんの話を聞いてなかったよ

「ごめっ…えっと…」

「だから、新しい先生が男らしいの。んで、格好良い先生だといいねって」

「あ…うん。そうだね」

あたしは笑顔を作ると、「ははっ」と乾いた笑い声をあげた

「もう! 陽菜はもっと貪欲になるべきだよ」


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