ハルアトスの姫君―君の始まり―
「っ…!」


剣をギリギリで止める。
歯をぎりっと噛まなくては負ける。持っている力は明らかにキースの方が上だ。


「あっ…!」


剣を強く弾かれ、体勢が崩れる。
その隙をつくかのように剣の先が自分の方に向かってくる。
―――死ぬ。キースはあたしを〝殺し〟にきている。




…今、死んでいいわけがない。
この剣を離したら、誰が、何があたしを守ってくれるっていうの?
―――誰も守ってくれない。自分で守れ、自分の手で、自分の身も…心も。





『ジア』





「え…?」


頭の中に響くキースの声。
あまりに懐かしい響きに鼻がツンと痛くなる。目が熱い。


「何に気を取られているのです?」

「っ…たぁ…!」


サクっと軽い音で、それでも確かに斬られた音が聞こえた。
その瞬間に血がプシュっと少しだけ噴き出した。
今度は腕だ。痛みは自分の血を見た瞬間にやって来た。

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