ハルアトスの姫君―君の始まり―
「どうもしてなどいません。
あなたを殺す。それだけが唯一、従うべき命令。」

「っ…!」


またしても剣が向かってきて、それを自分の剣でなぎ払う。
それでもしぶとく剣先は自分をめがけて飛んできた。





「キースっ…!」

「何故、名前を呼ぶのです?」




キン、キンと刃の交わる音が響く。
力の強さで言えばやっぱりどうしたって敵わない。
キースの剣は、重い。
正直言って、振り払うので精一杯だった。
それに傷も時間が経てば経つほど痛む。ズキズキと鈍く、重く。





「あっ…!」





強い力に手が耐えられなかった。
あたしの剣がカランカランと音を立てて地面に落とされる。


目の前には、冷たい顔をしたキース。
その刃は真っすぐにあたしに向けられている。





「終わりです。目は潰さない。それが命令でしたね。」


信じられないほどに冷たいキースの言葉の方が怖い、とそう思った。
向けられた剣よりも、何よりも。

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