ハルアトスの姫君―君の始まり―
走馬灯のように蘇る、記憶。



『死ねると…思ったのに。』
…こう言われてあたしは叩いたね、そのほっぺ。



『ジアに命を託したことも嘘じゃない。後悔もしていない。
だから…俺はジアがいてほしいと思う間はずっと傍にいるよ。』

『…約束。』

『うん。約束。』
…約束、したんだよ。この約束がどれだけあたしを救ってくれていたか、キースはきっと分かってないんだろうね。
ってそれもそのはず、かな。あたし、伝えようとしなかったもんね。



『ありがとう、ジア。ジアの手はあの日も温かかったよ。』
…猫の姿のあたしを〝あたし〟だって思ってくれた、気付いてくれた。
それが…あたしは本当に嬉しかった。
あの時猫の姿じゃなかったら、涙で顔も頭もおかしくなってしまうくらいに。



「さよなら、だね。」
…さよならなんて、したくなかった。
だからこうして、ここに来た。


終わりになんて、しない。
―――させない。


「…あたしは諦めないよ、キース!」


そう言って身をくるりと回し、剣を取る。
剣は…捨てない。あたしからは絶対。

< 306 / 424 >

この作品をシェア

pagetop