ハルアトスの姫君―君の始まり―
「ジョアンナが幸せかどうか、ヴィステンが幸せかどうかなんて…きっと誰にも分からないよ。
でも、ジョアンナが今は独りじゃないことは分かる。
ぱっと見た感じの印象しかないけど、ヴィステンっていう男はそう簡単に彼女を離しそうになかったから、ね。」

「…独りじゃ…ない…?」

「うん。独りじゃない。
ただ、少し厳しい話をさせてもらうと、ジョアンナが生きている可能性は限りなくゼロだ。」

「え…?」

「さっきも話したけど、ヴィステンはもう死んでいる。
そしてジョアンナがヴィステンに触れたことでジョアンナの魔力を少し吸収したヴィステンがまた歪みを生んだ。そしてそこに吸い込まれた。
どこに繋がっているのかは分からない。でももし仮にどこかに繋がり、出たのだとしたら…多少なりともこの世界に支障が出るはずだ。
〝今〟を生きていたジョアンナが過去に戻ったのだとすれば、過去には過去のジョアンナがいて、今のジョアンナがいていいはずがない。自ずと俺たちのいる世界に何かしらのアクションが起こるはずだ。
しかし、一週間経った今でも何も起こらない。」

「み、未来に行ったってことは考えられないの?」

「…もし未来にいったのだとしたら、その未来に向けて動いている〝今〟がそれなりに影響を受ける。
時を操るということが非常に特殊な能力なのは、自分の身体の中を駆け巡る魔力から感じているよね?」


気だるさの理由は、長い間眠っていたからだけじゃない。
あたしの知らない力が収まるべきところに収まっていない。身体の中を暴れまわっている。


「時の魔法は非常にデリケートだ。たった一瞬、誰かが過去に行くだけでも未来が変わる。ジアがジョアンナの過去に戻っても何の支障もきたさなかったのは、ジアが不可視の状態だったからだ。それは多分、無意識のうちに魔法で行っていたんだろうけど、ジアだからできることだよ。他の人間が安易に過去や未来を行き来していたら、その度にそれに振り回されて多くの人間が死に、多くの人間が生まれることになる。」


真っすぐ、それでいてはっきりとキースはそう言った。

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