ハルアトスの姫君―君の始まり―
それから、俺はありとあらゆる魔法の勉強に明け暮れた。
いつか本当に〝独り〟になってしまったとき。それはすぐに来るかもしれないし、遠すぎる未来かもしれない。そうであるにも関わらず、母さんはどこか焦燥感を抱いていて、それは当時の俺にもはっきりと伝わって来た。
だからこそ飲み込んだ。力をつけていくことが全てだった。



「…どうして治せないんだろう…?」

「治癒の魔法は…私にもできないわ。」



炎、水、風…攻撃系の魔法はすぐ習得できるのに、どうしても〝治癒〟だけは習得できなかった。


直接的な力となりうるものは全て母さんから学んだ。魔法使いの世界で必要な情報も全て、母さんが与えてくれた。
そしてその一方で、人間界で生きていくために必要な知識は父さんから学んだ。特に俺が興味を持ったのは古文書だった。書物も好きだったし、何より読めない言語に出会うことが単純に面白かった。それゆえに古語を覚えるのも早かった。



「キースは父さんよりもずっと物覚えが良いなぁ…。母さんの血だね。」

「もっと教えてよ、父さん!」


記憶に残る父の面影はいつだって優しかった。優しくて温かく、慈愛に満ちた人だった。優しく微笑み、俺に新しい世界を教えてくれた。それを俺は僅かだって取りこぼさない様に必死だった。



そして14歳になった頃、母親の身体を病が蝕んでいることに気付いた。
魔法使いも人間と同じように病に倒れるのだということを、初めて知った。



頼れる魔法使いはおろか医者さえいない俺たちに成す術はなかった。


「…何も…残せなくて…ごめん…ね…。
これからもっと…辛い想いをさせて…っ…しまうかもしれない…。
でも…生まれてきてくれて…ありがとう。」


母さんの最期の言葉も、その表情も、今でもはっきりと思い出せるほど鮮烈に俺の記憶に残っている。

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