ハルアトスの姫君―君の始まり―
どうやって帰って来たのか、それは今思い返してもあまりはっきりとは思い出せない。
ドアをパタンと閉め、そのドアを背にしてずるずると座り込む。ぎゅっと抱きしめたままの母さんの形見の本からは懐かしい香りがして、それが我慢していた涙を流させる。





それは懐かしい痛みだった。
あの日、人間に拒絶された痛み。それと同じ痛みが襲ってくる。火傷もじわりじわりと痛みを増してくる。


誰にも言ったことはなかったけれど、俺はこの時初めて死にたいと思った。
でも死ねなかったのは、母さんの最期の言葉を大切にしていたからだった。


人間にはなれない。でも完全な魔法使いにもなれない。
中途半端で存在自体を否定される自分。
それを思って泣いた。


形見の本は魔法使いの理について書かれてあるものだった。今となっては母さんがそれを俺に見せたがらなかった理由には納得がいく。


〝魔法使いは魔力故に長命で、人間とは全く別の時間を生きる。それ故に交わってはならない〟
〝魔法使いと人間の血を受けた存在はこの世界では認められない〟


「…認められない…か…。」


父さんの戻らない家で一人、そう呟いた。
誰かに認められたいわけじゃない。ただ、存在を否定されることを望まないだけだ。…それすらも高望みと言われなくちゃならないのだろうか?


心の中では強気なことを考えていても、もう二度と魔法使いに関わりたいとは思えなかった。そんなに俺は強くなかった。


しばらくして、父が戻って来た。
久しぶりに同じ食卓を囲み、俺は自分がヴィトックスに赴いたことを伏せて、訊ねた。


「ねぇ、父さん。」

「なんだい、キース。」

「…どうして母さんは俺を生んだの?」

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