ハルアトスの姫君―君の始まり―
* * *
春の空気はただ単純に好きだった。
そのため訓練が終わった午後、訓練所の裏手にある大木の下で読書に勤しんでいた。
不意に視界がさらにかげった。不審に思って顔を上げると、彼女がいた。
「何の本…読んでるんですか?」
好奇心の強そうな大きな瞳を輝かせて、彼女は訊いた。人とかかわることを極力避けていたこの頃の俺は、ぶっきらぼうにしか言葉を返せない。
「…関係ない。」
「確かに私には関係がないかもしれないけど、でも…あるかもしれない。だから教えてください。」
苦手だと、そう思った。
大抵の人間は俺の無愛想な態度に好印象を抱かない。それでいい。それがいい。それなのに、彼女は俺の態度に怯むことなく真っすぐに言葉を投げかけてくる。
「体術の本だ。」
「なるほど。それは私も身に付けないといけないかもしれません。
…教えてくださいます?」
「なんで俺が…!」
「あ、怒らせるつもりじゃなかったんです。ごめんなさい。
…この間はありがとうございました。とても助かりました。お見苦しいところを見せてしまい…申し訳ありません。
本当はこうして顔を合わせることも結構恥ずかしい…っていうか勇気が必要なことだったんですが、それよりも何よりもどうしてもお礼が言いたくて。
それと…これ。」
差し出されたのは彼女に渡したマントだった。
「返さなくていいと言った。」
「でも私は返したかったんです。ありがとうございました。」
彼女は深く頭を下げ、そして顔を上げた。
そこにあった表情が眩しいくらいの笑顔で、俺には直視することが難しかった。
桃色の肩までしかない髪が桜と一緒に揺れた。
「私、ルナと言います。ルナ・フォート。」
「…そうか。」
「名乗ったんですから名前、教えてください。」
「…キース・シャンドルド。」
春の空気はただ単純に好きだった。
そのため訓練が終わった午後、訓練所の裏手にある大木の下で読書に勤しんでいた。
不意に視界がさらにかげった。不審に思って顔を上げると、彼女がいた。
「何の本…読んでるんですか?」
好奇心の強そうな大きな瞳を輝かせて、彼女は訊いた。人とかかわることを極力避けていたこの頃の俺は、ぶっきらぼうにしか言葉を返せない。
「…関係ない。」
「確かに私には関係がないかもしれないけど、でも…あるかもしれない。だから教えてください。」
苦手だと、そう思った。
大抵の人間は俺の無愛想な態度に好印象を抱かない。それでいい。それがいい。それなのに、彼女は俺の態度に怯むことなく真っすぐに言葉を投げかけてくる。
「体術の本だ。」
「なるほど。それは私も身に付けないといけないかもしれません。
…教えてくださいます?」
「なんで俺が…!」
「あ、怒らせるつもりじゃなかったんです。ごめんなさい。
…この間はありがとうございました。とても助かりました。お見苦しいところを見せてしまい…申し訳ありません。
本当はこうして顔を合わせることも結構恥ずかしい…っていうか勇気が必要なことだったんですが、それよりも何よりもどうしてもお礼が言いたくて。
それと…これ。」
差し出されたのは彼女に渡したマントだった。
「返さなくていいと言った。」
「でも私は返したかったんです。ありがとうございました。」
彼女は深く頭を下げ、そして顔を上げた。
そこにあった表情が眩しいくらいの笑顔で、俺には直視することが難しかった。
桃色の肩までしかない髪が桜と一緒に揺れた。
「私、ルナと言います。ルナ・フォート。」
「…そうか。」
「名乗ったんですから名前、教えてください。」
「…キース・シャンドルド。」