ハルアトスの姫君―君の始まり―
「何故戦いが始まったのか、今の俺に知る術はないし、行けと言われれば行かなくてはならないのは剣士の宿命だよ。
…でも、どうしても行く前に君に伝えなくちゃいけないことがあった。」

「伝えなくちゃ…いけないこと…?」

「うん。
…ずっと、長い間…俺は独りでいて、頑なに心を閉ざしていた。それは、出会った頃にも気付いていたと思うけど、俺は君にも不遜な態度を取り続けて来たね。」

「……。」


腕の中で小さく頷くルナ。涙はまだ止まっていないようだ。


「でも君はいつしか当たり前のように傍にいた。…傍にいてくれた。
気付けば閉ざしていたはずの心なんてとっくの昔になかった。
君の笑顔を見ていたいと思った。ずっと、この距離で。」


ゆっくりと顔を上げるルナを感じ、俺はゆっくりと腕の力を緩めた。
視線がぶつかり合う。


「…生まれて初めて、両親以外の誰かを大切だと思った。大切にしたいと…思った。
君がいてくれたから、俺に出会ってくれたから…俺は、こんな気持ちを知ることができた。
だからありがとう、ルナ。君に出会えたこと、君と過ごした時間、その全てが俺の人生を価値あるものに変えてくれた。」


父さんや母さんがくれた言葉を忘れたわけじゃない。
それでも脳裏に焼き付いて離れないのは、〝在ってはならない存在〟であるという事実だった。
そんな自分が隣にいることを許されている、ただ隣で微笑んでくれる、その存在がどれだけ救いだったか…君は気付いてないだろう?


少しできた距離を埋めるように、そっとルナの額に唇をのせた。


「…帰ってくるよ、必ず。俺は死なない。」


嘘じゃない。そんな簡単には、死なない。


「わ、私っ…キースのこと…っ…。」


それ以上は、言わないでほしい。少なくとも今は。
俺はその言葉を飲み込むように、彼女の唇に自分のそれを重ねた。

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