弟矢 ―四神剣伝説―
木の幹にもたれかかり、膝を抱え、打ち震えていた。その時、


『おいっ! おきみ。お前……おきみだよな?』


暗闇の中から、飛び出してきたのは、父より若い男だった。

大人たちが『かずやさま』と呼ぶ男に似てる。でも、目の光が違う、と彼女は思った。『かずやさま』は怖いけど、この男は怖くない、おきみはそんなことを考える。


『お前、なんでいなくなったりするんだよ。必死で探したんだぜ。ほら、帰ろう』


おきみは首を振り、その場にしゃがみ込む。新しい里は怖かった。『かずやさま』も怖い。大人たちも皆怖かった。

もう一度、母の温もりに抱かれたい。

そう思ったとき、おきみは知らず知らずのうちに泣いていた。それは嗚咽となり、しゃくりを上げながら、おきみの口から失ったはずの声が溢れ出る。


『おっかぁ、おっかぁ……おっかあっ!』


母の亡骸に縋り、泣き続けたあの時のように。

その瞬間、おきみの体を人の温もりが包み込む。


『ごめん……ごめん、ごめんな……俺のせいだ。俺がお前から“おっかあ”を奪ったんだ。ごめん。俺が……俺が……』


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