弟矢 ―四神剣伝説―
蚩尤軍に緊張が走る。

武藤も、まさか女の弓月が本気で抜くとは思っていなかったらしい。


「弓月どのっ」


凪の動揺した声に乙矢は驚く。とても生身の男に思えぬほど、達観した人間に見えていたからだ。


「女は鬼になれぬと思うか? ならば試して見るがいい。その体で『青龍』を味わえ!」


右手で柄を握り締め、引き抜こうとした瞬間――その手を押さえたのは乙矢であった。


「駄目だ。これは切り札だろう? ひょっとしたら、最後の一本かも知れんのだぜ」

「乙矢殿! だからこそ……この身を鬼に変えても守らねばなりません! お放しください」
 

二人のやり取りを見ていた敵の一人が、神剣の与える緊張に耐えかねたようだ。


「何をゴチャゴチャ言っておる! 貴様は邪魔だ、死ねっ!」


そのまま、丸腰の乙矢に斬りかかった。


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