弟矢 ―四神剣伝説―
どうやら新蔵には信じがたいものらしい。

いや、彼だけでなく、長瀬も正三も、弥太吉までもが疑わしげな眼差しを乙矢に向ける。


「わ、わかんねぇよ、そんなこと。自分でも信じられない。今まで、竹刀を持って構えても、気迫をぶつけられるだけでビビッてたんだ。でも、さっきは違った。斬りたくなかったけど、でも――弓月殿を鬼にはできない。それだけは……できなかった」

「お前……」


俯きながら呻くように言う乙矢を見て、正三は何かに気付く。だが、言葉を発することはなかった。


戸惑う様子の正三と、気付いたのは同じことであろう。しかし、凪が口にした言葉は、


「未だ目覚めぬ、か。仕方ありません。乙矢どのにはこれより、一矢どのになって頂きましょう」


一同、ポカンとしている。もちろん、乙矢にも訳がわからない。


「ど、どういう意味だ?」

「よろしいですか……あなたが今、爾志乙矢だと名乗るとどうなるかわかりますか?」

「どう、なるんだ?」


乙矢はわからず新蔵に視線を投げるが、彼もまた視線を彷徨わせている。


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