ハッピークライシス
急いで地下室から寝室へと戻る。
子供を連れているとなると、いくらユエといえどそう遠くまでは逃げられないはずだ。
となると、リサの言っていた地下に存在するという旧線路はユエの向かう可能性が最も高い。
去り際にふと背後を振り返りそっと息を吐いた。
ベッドには空になったウィスキーボトルが転がっており、意識を朦朧とさせたリサ=フェデリコが何の光も映さない瞳でただぼんやりと天井を見上げていた。
この仕事を請け負って以降、シンシアとは様々な情報を共有してきた。
初めこそ、シホには信じられなかった。
映像で見た、幼くもどこか陰鬱な少女が、大人の、それもマフィアや青薔薇の記憶を奪うなど。けれど、もはや否定などするはずもない。
それは確かに存在したのだ。
リサを見て確信する。
記憶が失われた中で、目の前にある感覚は痛みと恐怖、そしてアルコールへ欲求のみ刻まれたリサ=フェデリコについて、シホは確かに哀れだと思った。
顔を見られている。殺すべきだ。
分かっているのに、シホにはどうしてもそれをすることは出来なかった。