ハッピークライシス
「…どういうつもり…?このままじゃ、あんたのピアニストみたいな綺麗な指がすっぱり落ちてしまうわよ」
「生憎、ピアノは弾かない。一、二本、無くなったところでそう差支えはないな」
シホが必死に、刃を下ろそうとするものの、その細身の腕のどこにそんな力があるのか、びくともしないのだ。
ユエはゆっくりと視線だけをシホから外す。
そこには、瞬きすら出来ずにジッとこちらを見続ける少女がいた。
「…さっき教えた場所に行って隠れていろ」
少女は、エメラルドグリーンの瞳をぱちぱちと瞬かせて、戸惑い気味に二歩、三歩と後ずさる。
「大人しく言うことを聞け。走れ!」
「何を、勝手な!誰が行かせるか…!そこを動くな!!」
「……シホの相手はガキじゃない。俺だ」
少女がもう一度後ろを振り向き、小さく頷いて駆けだした。
この方向だと、やはりリサが言っていた井戸から旧線路へと身を隠すに違いない。
―シンシアに、この情報だけでも伝えられたら。