ハッピークライシス


ユエは眉を寄せて、ゆっくりと銃を握りなおした。
次で、最後。シホは息を詰めて、身を低める。そして、一気に距離を縮め、ユエへと飛びかかった。

まるで、スローモーションのように感じた。暗闇の中で、その青い瞳にシホが映る。どうして、自分はそんなに泣きそうな顔をしているのだろう。

刹那、溢れだす感情に胸が痛い。

ユエは後ろへと飛び退き、トリガーに手を掛けた。銃口は、真っ直ぐにシホの心臓をさす。


―殺られる。

地面を蹴り上がり、両手で以てナイフを振りかざしてユエに刃を向けながらも、無防備にあいた胸元への衝撃を待つ。

けれど。


――――ッ!

訪れたのは、痛みではなく、銃身と刃が合わさる鈍い音。痺れる衝撃が掌を伝う。ユエはトリガーを引かなかった。ただ、ナイフを受け止める為だけに銃を使ったのだ。

銃で受けるユエの手には刃が食い込み、だらだらと血が滴りシャツの袖を真っ赤に染めていた。

< 113 / 145 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop