ハッピークライシス


ユエは少女を奪い去る時に、リサ=フェデリコから自身と彼女についての記憶を消させたことを思い出した。
それは、以前シンシアに見せられたセオ=カルタの映像と同じ光景だった。

記憶を消去する対象者に触れ、名前を呼び、キスを落とす。


たったそれだけ。
ユエ自身と彼女の母親が記憶を消された話を合わせれば、その"名前"というのは必ずしも本名でなくても良いということだろう。

おそらく、本人が自身を指し示す"コード"だと深く認識をしていることが条件なのだ。だからこそ、ユエには不完全にしかチカラが掛からなかった。

ロゼという名前は、その日シンシアから与えられた偽名であり、ユエの中にまだそこまで浸透していたわけではなかったのだろう。


だからこそ、ふとした瞬間にフェデリコの寝室の暗証番号だけが思い出されたのだ。


「消したい記憶は、限定出来るのか」

「…フィリップ様とリサ様に訓練をさせられたから」


少女が袖を捲れば、そこには鞭で叩かれたような古傷が数多く残されていた。

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