ハッピークライシス
父親は、娘の持つ異常な能力を恐れ、闇市場に少女を放り込んだのだという。
彼女が存在した証を抹消し、自身の娘の記憶をも彼女に消去させた父親は、娘を売り飛ばした罪悪感に震えることもなく、全てを忘れて妻と平凡な暮らしをしているらしい。
少女は、フェデリコに買い取られ、言われるがままに沢山の人間の記憶を消してきた。けれど、一番消したい心の痛みだけは未だに深く刻まれたまま。自身の記憶だけは消すことが出来ないのだ。
「ユエは、わたしを盗んでどうするの。誰かに売る?それとも、何か消してほしい記憶があるの?」
「別に。ただ、自分の知らないモノに興味があっただけさ。消したいほど執着する記憶なんてない。まあでも、これも何かの縁だ。これから真っ当な生活が出来るくらいの援助をしてやってもいい」
額に汗が滲む。
傷口が徐々に火照り、目の前がくらくらと揺れる。
ユエは瞼を閉じながら少女に向かって呟いた。