ハッピークライシス


「俺にも、手に入れられないものがあったんだな。あの壁画みたいに」

「…壁画?」

「ああ、とても美しいんだ。お前も、あの美術品達と暮らしていたんだろう?何か気に入りのものはあったのか」


まだ舌足らずな子供に、馬鹿らしい質問だ。そう思いつつも回答を待つ。少女は、暫く考え込んだ後、ぽつりと呟いた。



「"メテオラの乙女"」



ユエは思わぬ返答に驚いて思わずゴホゴホと咽てしまった。不思議そうな顔をする少女に向かって、ゆっくりと微笑んだ。



「良い趣味だな。俺も好きだ」



そっと少女から離れる。
着ていたワンピースには、べっとりと血がついて汚れてしまっていた。

血を失いすぎたせいで、酷く眠い。
少女の小さな手を指でなぞっていると、どこかホッとしたような心地になるのはなぜだろう。

別に、子供なんて全然好きでもないくせに。

瞼を閉じかけたユエを、少女が心配そうに覗きこんだ。
ああ、おまえもひとりだものな。ユエは、ぼんやりとそんなことを考えながら、引きづり込まれるように深い眠りへと落ちていった。

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