ハッピークライシス
シホは幼い頃から変わらず美人だ。
驚くほど気が強くて、負けず嫌いで、誰より繊細な心を持っている。ユエよりいくつか年上だけれど、いつだって自分が兄のような気持ちでいた。
彼女は、案の定不満に思っていたみたいだが。
掌をギュッと握りしめて声を上げるシホを落ち着かせるように、そっと微笑んだ。
『…だって、さよならは悲しいもの』
『何言っているんだ。いつだって傍にいるさ』
『ほんとうに、ユエは嘘ばっかり。シンシアは我儘だし』
シホは呆れたように眉を寄せる。
ざわりとこの土地特有の、冷たく乾いた風が吹き抜けた。
土埃が舞い、視界が奪われる。
顔を顰めながら、そっと半分だけ目を開く。土埃の中に、真紅が見えた。おかしいな、この色は。
『でも、守ってくれてありがとう。ユエ』
『……、ああ』