ハッピークライシス
「…テンペランス=ジュールの初期の作品よ。ジュールをご存知?」
「ええ、勿論です。彼の作品は素晴らしい」
「私もそう思います。ですから、彼の代表作のひとつである"メテオラの乙女"の一般公開をとても楽しみにしていたのに。青薔薇に盗まれてしまって」
リサの言葉ににこりと笑みを浮かべて、ゆっくりと絵画を眺める。
―本物だ。
贋作やレプリカなどではない。間違いなく名画家の作品。ユエは呆れかえって思わずリサを見た。この幼く美しいだけの女は、これがどういう代物か全く分かっていない。
こんな場所で所有されるはずのない絵だ。
本来であれば、国立美術館で厳重に管理されるべき宝。前の持主は、確かイタリアでも有数の資産家だったか。
初めて出会う男を寝室に招き入れ、暢気にしているとは愚かにも程がある。
フィリップ=フェデリコも大丈夫なのか?こんな女を妻にして。
「……流石、人脈の広いフェデリコ氏です。このような名画を手に入れられるとは。とても値のつけられるものじゃないのに」