ハッピークライシス


「彼の名はロゼ。彼の記憶を抹消なさい。私についての記憶、この場所での出来事、秘密と祝福について、思い出すことなくすべてデリートするのよ」

「記憶を消す、だと?」

「ありがとう、ロゼ。最高に素敵な夜だった。この思い出を共有出来ないことは、とても悲しいことね」



少女は、言われるがままに、ゆっくりとユエに近づいてくる。得たいのしれない恐怖に、ユエは小さく身体を強張らせた。このまま力任せにふたりを殺すことは可能だが、"祝福"とやらの謎は永遠に解けなくなる。


―こんなガキに、何を恐れる。


エメラルドグリーンと深いブルーが交じり合う。
華奢な少女の左手が、そっとユエの頬へと当てられた。


『――ロゼ、あなたに祝福を』


声無き声が少女から発せられ、右頬に唇が落とされた。

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