ハッピークライシス

そろそろ、移動しよう。ユエはそう考えていた。
メテオラを攫い、飽きるまで愛で、後腐れなくシンシアに譲り渡した。この街に来た目的をユエは充分果たしたからだ。

ジェイドの恋人役でパーティに参加した夜に起こった"不可解な出来事"には首を傾げたが、結局何も思い出せず段々と気にするのも馬鹿らしくなった。

アルコールを飲みすぎたのだという、シホの説が最も有力だとして、自身の中で無理矢理納得をさせた。(…とはいえ、ユエが酒に飲まれて記憶を失ったことなど、19年という人生で初めてのことだったが)


そんなタイミングでの連絡だった。


『ユエ、まだバアリにいるのか』

『ああ。けど、そろそろ移動しようと思っていたところだ。3ヶ月後に、アレイビア公国の女王戴冠60周年のセレモニーが開催される。国宝である"イエローダイヤモンド"が公開されるらしくってな。折角だから見ておこうかと』

『………国宝にまで手を出す気か。まあ、それはいいとして。お前に聞きたいことがある、今夜空いてないか?』


誰も盗むとは言っていないだろう。
まるで決めつけるような物良いにムッとする。


『随分と唐突だな。マフィアの厄介事に一般市民を巻き込まないでくれ。俺は忙しいんだ』

『何が一般市民だ、青薔薇。フィリップ=フェデリコの件だ』

『…今更。俺は政治に興味はない』

『記憶を奪われておいてか。盗賊のくせに』

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