ハッピークライシス












「…ということだ。苛立ちもするだろ」

「セオ=カルタが、裏でフィリップ=フェデリコと組んでたとは考えられないのか?」

「それはない。セオの身辺情報は既に全部洗った」


シンシアが、ノートパソコンにその時の映像を流しながら深い溜息を零した。
ズキリと頭の奥に痛みが走る。

ユエは知っていた、あの"少女"を。


押し黙ったままのユエを、シンシアはじっと観察した。

結局セオ=カルタは、"メテオラの乙女"という名画について一切思い出すことはなかった。それどころか、自身がどういう目的を持って取引を持ちかけたのかということすら忘れていた。

記憶を失う、というのとは少し異なる。
それは根こそぎ奪われた、という方が正しいように思えた。

"メテオラの乙女"に関する知識も、存在も、全てがごっそりと持っていかれている。催眠術か、何か得体の知れない力。おそらく、それを持っているのはあの少女。

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