この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜
そんな利勝さまの態度に、思わず泣いてしまいそうになる。
でも、ぐっとこらえて言葉を続けた。
「い……井深さまの分は、兄さまにお渡ししていただくようお頼みしました。
ですから……これは、利勝さまの分なのです」
それでも利勝さまには得心がいかないのか、不機嫌な表情は変わらない。
「井深の分を八十に頼んだなら、俺のもそうすればよかったろう。
そうすればわざわざこんな日暮れに、お前が来る必要なかったんだ」
「……それは……」
それは、どうしても利勝さまに直接お渡ししたくて。
この手拭いを受け取ってくださったとき、
利勝さまが どんなお顔をなさるのか、それが見たくて。
利勝さまも兄さまも、毎日のように日暮れまで出かけておられるから、こんな時間にでも来ないと会えないと思って。
喜んで受け取ってくださるとは、もちろん思わないけど。
でもこんなふうに、迷惑がられるとも思ってなかった……。
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