魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
「これ着るの…久しぶりだな」


真っ黒なマントを羽織ったコハクは、離れるとすぐに泣いてしまうルゥを抱っこして旅支度を整えた。

旅支度といってもルゥの影にミルクや着替えを入れただけでいつものように手ぶら状態。

だが…このマントを羽織ったのには意味がある。


「コハク……」


「アーシェ、ちょっとここを空けるからお前に任せた。好きなだけ創作して好きなだけここに居てくれよ。チビを連れて帰るまで居てくれたら助かるんだけど」


ほぼ同じ顔のアーシェは先ほどまでゼブルの邪気にあてられて寝込んでいた。

普通の人間ならばそうなるのは自然なので、コハクはアーシェの肩を叩いて小さくはにかむ。


「俺のせいでチビが攫われた。けどすぐ見つけて帰ってくっからさ。今お前が作ってるアレ、チビにすっげ似てるからできたら街の中央広場に置こうぜ、楽しみにしてる」


「…俺だけが何もできなくてつらい。どうすればいい?」


グラースはドラちゃんに乗ってどこかへ飛び立った。

デスは…恐らく魔界へ行ってゼブルを捜しているだろう。

そしてコハクは――千里眼で見つけた頼りない軌跡を頼りに今から旅立つ。


アーシェひとりだけが何もできず城に留まることになり、本人はそれを悔やんでいるようだが――コハクはそれを全く気にも留めていなかった。


「どうもしなくていいって。チビがここに帰って来たら…まあハグくらいは許してやるし。キスは駄目!お前は考え込まなくていいからここに居てくれ。な?」


さっきまで荒れていたコハクはリロイとティアラに窘められて少し冷静になっていた。

ルゥもずっとラスのハンカチを握りしめたまま大人しくしていたし、ラスを見つけるまで…ここに帰って来るつもりはなかった。


マント姿のコハクは魔法使いそのもので、ブーツの音を響かせて部屋を出て廊下を歩いているとアーシェが追って来る。


「わかったけど…焦るなよ。ラスのことは俺も心配だけど、ラスならきっとなんとかなるはず。…根拠はないけど…」


「ん、チビはいつも自分でなんとかしてきたから俺もちょっと落ち着いた。…行って来る」


城を出て庭に出ると、ぱちんと指を鳴らして真っ白な馬車を出現させた。

ルゥが居なければひとりで行ったのだが、今回はそうもいかない。


そしてコハクも、グリーンリバーを出て行った。
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