魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
ここへ来てから1週間――ゼブルもコハクもまだここへ現れる気配はない。

動物たちがひっきりなしに遊びに来てくれるので、寂しさを感じることはあまりなかったが…コハクよりもルゥがどうしているか心配で仕方がなかった。


「私ね、ルゥっていう赤ちゃんが居るの。寂しがってないかな…泣いてないかな…。コーは大人だから泣いたりしないと思うけど…ルゥは心配だなあ…」


――湖の前にある小さな花畑の上に座ったラスの周囲には、動物たちが沢山集まっていた。

彼らからしてみればラスは人間で捕食者側だが――自分たちを騙している様子はないし、何しろ悪魔に狙われる人間など見たことがない。

ラスは小さくて弱くて可愛い――そんなラスを守らなければという妙な使命に捉われていた彼らは、ラスには秘密で一大プロジェクトを立ち上げていた。


『今日は誰が行く?小さいのからスタートして、最後は大きめのやつだ。どうする?』


『じゃあ僕が行く。捕まえて殺されないように祈ってて』


真っ白なウサギが耳をぴんと立てて立候補すると、一目散に山を下って行く。

ラスが閉じこめられている山を下って人の脚では1日――動物だったら半日で麓に着き、小さな橋を渡った先には小さな村がある。

ウサギはその村を目指して山を駆け下りると、途中休憩を挟みながら難なく麓へ着いて村の入り口近くで二本脚だけで立ち上がると村人が現れるまでじっと待った。

これが彼らの一大プロジェクトの正体。


「あ、おいっ、ウサギが居るぞ!今日の晩飯にしてやる」


ちょうど入り口を通りがかった村人が弓矢を手に向かってきた。

ウサギは村人をからかうようにしてぐるぐる回ったり華麗に矢を避けて苛立たせると、追いかけてきた村人を先導するように森の方へと誘って行く。


「くそ…なかなか掴まらないな…。あのウサギはもう諦めよう」


ウサギはがっかりしなかった。

村へと戻って行った村人を見送った後今度は山を駆け上がってラスの元までたどり着き、馴れ馴れしく膝に乗って触られると気持ちいい長い耳を撫でてもらった。


「もう夜だよ、どこに行ってたの?今日は一緒に寝よっか」


『お嬢さんの赤ちゃんの代わりになってあげる。思いきり抱きしめてもいいよ』


ラスが鼻をぐすっと鳴らした。

元気よく見せていても本当は悲しくて寂しいのだと感じて、動物たちは今以上に結束を高めて、少しずつ大人になっていくラスを守り抜こうと決めた。
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