魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
酒場に脚を踏み入れると、それまで賑わっていた店内がしんと静まり返った。

コハクにとってはそれはもう慣れた現象で、いい意味でもわるい意味でも今回はそういった反応が助かる。

こういう時に自分の外見が役立つことを長い生の間に役立つことを知っているので、わざとマントも脱いで来た。


「強い酒をくれ」


女の店にそう声をかけただけで、とろけるような視線で見つめてくる――

ラスに出会う以前のコハクならば無論そういった反応をされれば頂いていたはずだったが、今はラス以外の女に眼中はない。

男も女もちらちらと視線を投げてくる中、二人掛けのテーブルに腰かけたコハクは、店主自ら運んできた酒を一気に飲み干してけろっとしていた。


「弱い。もっと強いのはねえのか」


「あ、あんた…いや、あなたは…この辺の人じゃないね。その瞳の色……」


「女を捜してる。この女だ。知ってるか」


コハクが懐から取り出したのは、ラスがまだゴールドストーン王国の王女だった時に描かれた肖像画のレプリカだ。

まだ幼さが残る頃に描かれたものだが、特徴は完璧に捉えているので問題はないだろう。

コハクが背もたれに寄りかかって長い脚を組むと、まだ20代後半らしき店主は吸い込まれるように空いていた椅子に座って肖像画を見つめた。


「どこかのお姫様?こんな所には来ないし見たことないけど…」


「そうか、ならいい。もし見かけたらグリーンリバーまで手紙を飛ばしてくれ。すぐ迎えに来る」


「あなた…何者?人なの?それとも魔物?こんな綺麗な男…見たことない…」


頬に伸びて来た手を払いのけたコハクは、嘲るように鼻で笑ってボトルのままの酒をラッパ飲みして少し俯いた。


「……そろそろ魔物になる。そうならねえように…捜してるんだ」


何かを言い含んだ言葉だったが、店主はコハクの細い身体や美貌に夢中になっていてそれに気付くことはなかった。


「な、何か食べ物を持って来てあげる。あとみんなにも聞いてみるから泊まっていくんでしょ?」


「そうだけど長居はしねえ。宿で俺の子供が待ってるからな」


店主が明らかにがっかりした顔をした。

熱い視線を投げかけて来る酒場の空気は完全にコハクが支配して、そしてコハクは独りだった。
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