魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
「ふぅ…居ねえな……」


宿に戻ったコハクは、ベッドですやすや眠っていたルゥの隣に寝転がると、ぷにぷにの頬を指で突いてあたたかさを確認した。

警戒には警戒をと部屋には魔法でロックをかけていたし、ご丁寧にベッドの周囲には結界も張ってあったが、ゼブルがこちらにまでちょっかいをかけてくる気配はない。


「デス…あいつには迷惑かけてんな…」


ゼブルを追って魔界へ行ったデス。

あれから音沙汰もなく、ラスが居ないと壊れてしまうのは自分だけではない。

本来ならラスに惚れた男は言語道断でいじめまくって脅しまくってラスに言い寄れないようにしてきたが――デスに様々な感情を芽生えさせたラスに惚れたのは…自然な成り行きだったと思う。


「何せチビは俺を変えた男だし。…なあルゥ…お前が居てくれるから俺は正気で居られるんだぜ。ったく…また俺に似てきたなお前」


「ぷぅ…ぷぅ…」


すやすや寝息を立てて寝ている我が子は、もうひとりで立てるようになった。

掴まり立ちした後よちよち歩いて自分の所まで来るルゥは本当に可愛くて、最初は女の子がいいと思っていたはずなのだが、それはどうでもよくなっていた。

ランプをひとつだけつけた仄明るい部屋で、ルゥを抱き寄せて瞳を閉じると――いつもラスをこうして抱きしめて眠っていたのが遥か昔のように感じられた。

あれから満足に熟睡もできず食欲もなくなって疲弊しきっていたが、ルゥが居なければ今頃…どうなっていただろうか。

魔界に乗り込んで、あちらの世界が崩壊するまで暴れてゼブルひとりを見つけ出すのではなく全てを無に帰したかもしれない。

デスはきっと自分が魔界へ行けばそうするかもしれないと思って自ら乗り込んだのだろう。


「ルゥ……チビ………」


ラスのことだから元気でやっているかもしれない…でもそうじゃないとしたら一体どんな目に遭っているのか。

ゼブルはどこにラスを放置したのだろうか。

ちゃんと屋根のあるところで…ちゃんと食事ができる場所に居るのだろうか。


「…………ラス……」


浅い眠りに吸い込まれる。

粗末で小さなテーブルには、今まで捜し回って来た村や街に赤ペンでバツを書き込んだ地図が置いてあった。


――コハクが眠ったと同時にルゥの目がぱっちりと開いた。

そしてまるで地図を覗き込むようにしばらく見つめた後、また眠った。
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