魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
コハクが狭いキッチンに立っててきぱきとお茶を淹れてくれている姿はとても懐かしくて、ベッドに座らされたラスはよたよたとルゥが近付いて来て手を伸ばして来たので、枯れ枝のような指でルゥの頬を撫でた。


「マー。マー」


「………」


名を呼んだはずなのに、やはり声は出ない。

だがルゥは執拗に“マー”と繰り返して脚に掴まってくる。

…また少しコハクに似てきたなあ、とぼんやり考えていたラスは、コハクがマントを脱いで長居をしそうな気配だったので机の引き出しから紙を取り出して震える指で字を書いた。


『捜している人はここには居ない』


見つけてほしかったけれど…今の自分の顔は以前の面影もないだろう。

現にコハクは自分だと気付いていないようだし、お茶を運んでくると椅子を引き寄せて膝がつきそうなほど至近距離に座ってじっと見つめてくる。


――見られたくない。

顔を逸らして紙をコハクに見せると、手に取ってたどたどしい文字を読んだコハクは何故か今までの状況を語り始めた。


「今俺の仲間も捜してくれてるんだ。デスって奴はちょっと遠い所に。グラースって奴も今はどこに居るかわからねえ。リロイとティアラって奴らは各国に手紙を出して情報を募ってる。ああ、そういや俺の奥さんの父親がうるさくてさ。どこに居るんだってしつこく手紙寄越してきやがってうぜえんだよな」


みんなが自分を捜してくれている――

独りぼっちではなかったのだとわかるとほっとしたが、ラスは紙を奪い返してまた伝えたいことを書いた。


『出て行って』


それを覗き込んでみたコハクはルゥを抱っこしてラスの膝に乗せると、小さくなった自分の瞳を覗き込んできた。


「…本当に知らねえか?」


ラスは頷いたが、コハクは瞳を逸らさずにじっと見つめてくる。

ルゥは抱き着いてきて離れないし、これからもどんどん老いてゆくであろう姿を直視されるのは耐えられない。


ラスはなんとかルゥを引き剥がして立ち上がると、よろけながらドアを開けて今すぐ出て行ってもらいたいと意思表示をした。


「…そっか。知らねえならいいんだ。ルゥ、行くぞ」


「マー!マー!」


コハクがいやがるルゥを抱っこして家を出て行く。


さようなら、コー。

さようなら、ルゥ。


元気でね、と願いながらドアを閉めかけた時――
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