魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
グリーンリバーは年中を通してあたたかいし気候が安定しているので、ランチは外で食べようと思ったラスは、大量のパンケーキを乗せたカートを押して庭に出た。

コハクからオーディンとローズマリーが帰って来るとは聞いていたが…まさか彼らがすでに帰ってきてコハクと談笑していたとは夢にも思わず、絶叫。


「オーディンさん!お師匠さん!」


「これはラス様、お変わりなくお美しい。お久しぶりですね」


すぐ駆け寄ってくるものだとばかり思っていたオーディンは、ラスがその場に留まってにこにこしているものの僅かに見せた陰が気になり、ルゥを膝に乗せていたコハクにちらりと視線を走らせる。


「こいつらちょっと早めに戻って来たみたいでさ。ちょうどよかったじゃんか、みんなで食おうぜ」


「うんっ。じゃあデス、お腹いっぱい食べれなくなっちゃったけど夜は沢山作ってあげるから我慢してね」


「………うん…」


子供のようにラスのドレスの袖を骨だけの指で握っているデスの変化――

オーディンはまたその変化に気付きつつ、何食わぬ顔でルゥの頬にキスをしまくり、ローズマリーが腰を上げてにこやかな笑顔をラスに向けて一緒にカートを押した。


「お師匠さんっ」


「ラス王女…面白いほどコハクにそっくりな子供が産まれたのね。中身もそっくりだと苦労するわよ」


「コーは女の子を欲しがってるみたいだから次は女の子を産んであげたいんだけど…神様次第だから」


「…?あなた……妊娠を…?」


「うん、今度はつわりもなくて楽だよ。あ、ルゥちゃん危ないから走らないでっ」


絶句しているローズマリーの脇をすり抜けたラスは、よたよたと駆け寄ってくるルゥを抱っこして母となった慈母の如き微笑を見せた。


…その姿を望んだけれど、もう一生適わない願いの残像が今目の前にある――


また卑屈な心がむくむくともたげたローズマリーは、賢者と呼ばれた貴き孤高の存在である自身を内から呼び戻すと、生クリームの山が乗った皿に指を突っ込んで口に入れる。


「私も頂くわ。コハク、話はその後でいいんでしょう?」


「ああ、まあな」


「コハク様…ラス様に何か…?」


コハクの赤い瞳に懺悔の光が揺らめく。

これは真剣な話なのだと悟ったオーディンは、コハクの力にならなければとあらゆる知識を呼び覚まして集中に努めた。
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