魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
「ねえお師匠さん、旅はもう終わったの?ずっと一緒に居られるの?」


話を一旦切り上げて腰を上げると、まばゆい笑顔で抱き着いてきたラスの頭を子供にするようにして撫でて首を振った。


「まだ旅は始まったばかりよ。今回は…えーと…そう、ルゥを見に来たの。あなたがまた妊娠したというのは予想外だったけれど」


「この前ちょっと遅い新婚旅行に行ったの。その時にお腹に宿ってくれたんだと思うんだけど、ハネムーンベイビーって言うんだって」


きつく抱き着かれて歩くのも困難なローズマリーは、ラスに対する卑屈な感情も拭いきれない中、無邪気過ぎるラスに呆れも感じてルゥを高い高いしてやっていたコハクに目で助けを求めた。

昔から阿吽の呼吸だったコハクはすぐその求めに気付くと、畳んでいたベビーカーを広げてルゥを乗せて、片腕だけでラスを抱っこした。


「あんまはしゃぐなって。ずっとは居れねえけど数日は滞在してくれるらしいからゆっくり過ごして遊んでもらえよ」


「うん、わかった」


コハクたちが階段を上がって部屋に向かう中、オーディンは最後方を歩くデスを待って肩を並べると、目深に被っていたフードを払いのけて顔を晒させた。

完全に無表情だった死神の美貌は――明らかにやわらかくなっている。

無表情には変わりはないが、黒瞳に様々な感情が読み取れる。


この世に自分の知らないことは何ひとつないと自負しているオーディンは、デスの腕を掴んで目線まで持ち上げて、骨だけの指を観察した。


「この指が変化したことはありませんか?」


「………ある…」


「ほう。どういう風に?」


デスは少し考えてから、ラスと当時まだ産まれていなかったルゥの命を救おうとして一瞬変化した自身の体験をぼそぼそと語った。


「……手…骨に……肉ついた……。多分……他の部分も…変わった……と…思う…。…神に…会ってから…俺…なんか…変わった…」


「神に…?あなたは創世神に会ったというのですか?それは…貴重な体験だ。さらなる詳細を知りたい。後であなたの部屋を訪ねます」


貪欲な知識欲を満たすために濃紺の瞳を光らせたオーディンは、こくんと頷いたデスの頭にフードを被せてやってぼそりと呟く。


「奇跡をお与えになるのならば…あの人の不治の病を直して下さればいいのに」


神は全てに等しく奇跡を与えるわけではない。

それを痛感する。
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