魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
ブレアが用意されたお茶は、全員が手をつけなかった。


…コハク以外。


「ん、なんも入ってねえみたいだな。チビ、飲んでもいいぞ」


「うん、わかった」


元々毒など入れるつもりはなかったが…

コハクの態度に苛立ちを募らせていたブレアは、猫のような足取りでさも定位置だと言わんばかりのコハクの隣に腰かけると、ちらりとラスに目配せをして微笑む。


「さっきからちらちら私を見ているけれど…私とコハクの関係を知ったのかしら」


「ちょっと前に。でもコーが私の影になる前のお話だって聞いたから別にいいの」


――ここへ来た時は純真無垢で世間知らずな王女だったが、今は様々な経験を経て成長したラスの返答にブレアが軽く目を見開く。

またラスの膝の上で指をくわえてじっとこちらを見ているルゥにも妙な力を感じて、首に下げている水晶のネックレスに注目した。


「それは…何なの?ものすごい力を感じるわ」


「銀のスプーンならぬ水晶を手に握って生まれてきたんだ。すげえだろ、さすが俺とチビの愛の結晶だろ」


とにかくラスとルゥの自慢ばかりしたがる超親馬鹿なコハクだが、相変わらず壮絶に美しく、また近寄ると火傷どころでは済まさないと感じる魅力に溢れていた。

一時期はここで一緒に暮らした時期もあったが――それはもう過去のこと。


コハクを揺るがすことは、もうできないだろう。

何せ自分は歳を取ってしまったのだから。


「わざわざ顔を見せに来てくれたってわけね、ありがとう。…もう次はないかしらね。会いに来てほしくないからこれで最後にしてちょうだい」


「ああわかった」


「え?なんで?どうして?また遊びに来ちゃ駄目なの?」


人は、老いてゆく。

ブレアも今はまだ美しくとも、年を重ねてゆく度に老いてゆく。

惚れた男にそんな姿を見せたくないというブレアの心境は、ラス以外の者は皆わかっていた。


「じゃあチビ、行くかー。次は霧の出る村だっけな」


目を白黒させているラスの手を引っ張って立たせたコハクは、ブレアの頭にぽんと手を置いて小さく微笑んだ。


「じゃあな」


「…ええ」


コハクたちが家を出て行くと、ブレアは背もたれに身体を預けて自身の頭を撫でながらくすりと笑う。


「優しくなったのね、気持ち悪いわ」


相変わらずの毒舌。
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